かつては「久津良文旦」と呼ばれ江戸時代から高岡にあったと言われています。
戦後、温州みかんのように小型で味の濃いみかんが主流となってきた頃、地元からは「久津良が美味しかった」「あの味が忘れられない」と声があがりました。昭和40年代後半、武家屋敷の庭に残っていた久津良文旦の木から苗木を作って増やし、町民からの公募で高岡文旦という名称も決まり、今では高岡を代表する果物に育ちました。
「高岡文旦はとにかく香りが良くて、食感も良いんです」。皮も美味しいし、小さい時から高岡文旦が身近にあった、と生産者の田中さんも大好きな高岡文旦。
大きな高岡文旦、その鮮やかなイエロー色の果皮は目に眩しい。取材は2月上旬、文旦の販売解禁の前日。木になったままの実から白いかけ袋を取ると、文旦からふわっと爽やかな香りが漂ってきました。
文旦をザボンと呼ぶ地域もありますがどちらも同じで、原産地はインドシナ半島。江戸時代初期に伝わったのが日本での栽培の始まりと言われています。
文旦は「風に弱いです」。一玉500~800gにもなる高岡文旦は風に揺られて実が落ちることもあり、また暑すぎると日焼け果(やけど)になり果皮が茶色くなったり、虫や枝が皮に傷をつけないように袋掛けの作業が欠かせなかったり、とにかく「デリケートな柑橘なんです」。「他の柑橘と比べても、とにかく枝がどんどん上に伸びる。枝も太いし。ここから上が今年伸びた枝です」、と言われて見上げると、1年間で1mも伸びている?!適応した環境ではとにかく木の成長が旺盛になり、剪定作業も大変だそうです。
日本では九州や高知など比較的温暖なところが栽培に適し、宮崎の高岡文旦をはじめ、長崎の平戸文旦、鹿児島の阿久根文旦、熊本の晩白柚、高知の土佐文旦など、各地に広がった文旦は、独自の文旦に進化し愛されています。
高岡文旦もここにしかないため、苗木を植えるときは切った枝先を台木に接いで、苗木を作るところから始めます。数年前に高岡文旦の栽培面積を拡大し、現在毎年4〜5tを出荷しています。
2月5日は高岡文旦の販売解禁日。2017年から始まり今年で2年目。重視したのは、木の上で熟成させてから収穫すること。そうすることでしっかり甘みを感じられる状態で食べる人の手元に届けられます。「高岡文旦らしい美味しさがちゃんと届けられる」と田中さんも言葉に力が入ります。
実は文旦類が出回るのは冬で、他地域の文旦は主に12月から販売されています。田中さんに「12月はお歳暮の需要もあるんじゃないですか?」と尋ねると、笑って、「木の上でならせたまま熟させたほうがおいしいって(他の農家さんとも以前から)話してたんです」。特に酸味が前から気になっていた、と。
文旦類は12月に収穫して冷暗所に貯蔵しておくのが一般的です。そのうちに酸味が抜けて、甘みを感じるようにはなりますが、順次出荷していくため出始めのものは酸味が強く、販売時期によって味のばらつきがでてしまいます。
収穫日を遅らせたことで、この時期金柑や他の作物の収穫もある柑橘農家さんには作業的負担が増えました。それでも曜日ごとに出荷する農家を決め、田中さんも週に2回の出荷日に合わせて収穫します。現在主に宮崎県内や贈り物用に販売されています。
田中さんは就農と同時にハウスでキュウリの栽培を開始。その後、親から引き継いだ山の果樹園も合わせて現在15haの畑で営農しています。そして、田中さんは12年前から柑橘専業農家に舵をきりました。
柑橘が好きなのはもちろん、家族と過ごす時間も作れるように。キュウリ栽培は毎日収穫と出荷があり、多い時期は1日2回の収穫に追われ、子育てに関われる時間が限られてしまうため決意。
田中さんには、体に不自由なところがある子どもさんがいます。遠方の支援学校に送り迎えをしたり、部活動の応援をしたり、農作業の合間を縫って家族と過ごす時間を作ります。
「子どもが部活を始めて、私も一緒に走るようになりました」。マラソンも始め、2018年12月の青島太平洋マラソン大会でもフルマラソンで出場、なんと3時間59分の好タイムで上位完走したそうです!
田中さんは現在、極早生みかん、ハウス金柑と露地金柑、ハウス日向夏と露地日向夏、高岡文旦を栽培。柑橘畑の栽培管理は同時期に同じ作業が連続し、一年中ゆっくり休む暇はありません。それでも、子どもさんの話や趣味のマラソンの話をする田中さんからは笑みがこぼれていました。
お土産にいただいた高岡文旦は一玉800g!まさに手に余る大きさ。
田中さんに切り方を教わりました。まず、ヘタのついている上部をざっくり切り落とします。全長の1/4くらいでしょうか、「思い切り」切り落とすとやっと文旦の果肉が見えてきます。次にお尻のところを同様に1/5くらい切り落とします。
円すい形になったら、内皮と実の間に指を入れ、果皮を剥ぎます。そして房を外し皮をむいていきます。もちろん黄色い果皮をむかずに、円すい形になった状態からそのまま包丁で放射状にカットして食べても大丈夫。
「このシャキシャキした食感が良いんです」、一粒一粒に果汁がつまった高岡文旦。収穫したてと思えないほど酸味が少なくて、甘くて驚きました。苦味は感じません。
「文旦は皮を砂糖漬けやジャムにして食べます」「子どもの頃は文旦の皮の砂糖漬けがおやつでした。うちの母の作る文旦の砂糖漬けもなかなか美味しいですよ」。あっ、準備してくれば良かったですね、と田中さん。これまで柑橘ピール(柑橘皮の砂糖煮)は、果肉を食べた後におまけで作るようなものだと思っていた私は、その皮のおいしさを説かれて一気に前のめりに。
高岡文旦を味わったら、田中さんにお勧めされた文旦ピール作りに挑戦しました。食べる大きに切り、1時間ほど水にさらし、砂糖の1/3~1/4を粗糖に置き換えると、茹でこぼしなしでもおいしい文旦ピールができました。皮も固くなく均一に火が通りました。高岡文旦は例年3月後半までの限定販売。「この砂糖煮にした美味しさも、もっと知ってもらいたいですね」二人で深くうなずき合いました。
JA宮崎中央高岡支所の文旦担当課より、ぜひ消費者の方に伝えたい、とコメントが届きました。「まだまだ県内でも高岡文旦のおいしさ等の魅力を多くの方が知らないことだと思います。」
「他の文旦とはひと味もふた味も違うし、非常に美味しくて、ぷりっぷりの食感のある高岡町特産の果物『高岡文旦』を今後も生産者や関係機関が連携し一生懸命愛情こめて栽培して参りますので、是非たくさんの方々にご賞味して頂きたいと思います。」地元の人々が愛してやまない文旦、ぜひお試しください。