「ハウス内は26度」と聞いていましたが、快適で、気がついたらちょっと汗をかいていただけの居心地のよいハウスの中。そこで、すらっとしてしなやか、それでいて肌にハリがある。果肉は薄くて、固くないけど柔らかくもない。薄い黄緑色で、青リンゴのように爽やか。実に不思議なピーマンに出逢いました。
ピーマンの旬は夏。旬の盛りの頃になると、肩がはりパリッと強固な肌で肉厚になったピーマンを、炒めたり焼いたり揚げ浸しにして食べます。旬の野菜を常食にしていると、冬のピーマンは季節外れで、正直あまりおいしくないネガティブなイメージがありました。そんな固まりかけていたものは、1月のしなやかなピーマンにさらっと崩されました。
冬のピーマンは夏のピーマンとは品種が違う野菜だと感じました。「うちの娘たちもピーマン好きですよー。外品(出荷できないもの)が少ないのはいいことなんですが、そうなるとピーマンが食べられないので奪い合いです 笑」。瀬治山さんお気に入りの食べ方は“ピーマンの素揚げ”。
味を評価されることも多いようですが「健康的に成長するように育てているだけ」と、結果的にえぐみがなくみずみずしいピーマンになるだけ、とクール。
「まさかこんなにハマるとは思わなかった」。自らも驚くほどピーマンに心酔している瀬治山さん。宮崎のピーマン農家の年間平均反収( 10a辺りの平均収量)は11〜12t。瀬治山さんは約20t(!)。不動の反収一位。
アボカドやライチ、バナナなどいわゆる新しい作物が熱視線を浴びる中でも「全然興味ないですねー(大笑)」と一蹴、ブレないピーマン熱。そのスキルに相次ぐオファーも興味なし。ピーマンの出荷先は一貫して地元のJAはまゆう。そこからイオン系のスーパーへ卸されているようです。
瀬治山さんの視点は『植物生理』と『物理』の2つ。せじやまハウス園芸のFacebookページでは『物理』の視点、ハウス内の定点観測画像や気温や地温や収量、Co2濃度・・・諸々のデータ集計とその解釈に、気象予報士並の読みと懸念事項を披露。もちろんフリーで情報の大盤振る舞い。台風や荒天時には農家さんからの相談も殺到・・・。
JA出荷を選択する理由の1つが「栽培に集中できるから」。「(ハウス外の気候に左右されず、ピーマンの生育にあわせて)いつも通りピーマンが呼吸しやすい環境を作るだけです」。作物の奴隷、いや介護の現場ですと。ピーマンさんの顔色を伺いながら。
ピーマン苗を定植する時は、そのピーマンの一生涯が決まる時。緊張の1週間。「一番シビアですね。基礎なんで。お家建てる時もそうじゃないですか、そこがダメだとどんなに上で頑張ってもダメなんです。活着っていうんですけど」。ピーマンも説明も抜群にうまい。
『植物生理』で大事な視点の1つが植物の水の移動。「(活着がうまくいくと)必要な時に必要な水をいつでも吸える状態になりました!って葉っぱがパチーンとなるんです。」呼吸は根から吸い上げた水が体を巡り、葉っぱから外にでていくこと。
ストレスのない呼吸のために、活着後も気が抜けません。ハウス内の湿度や温度、空気の循環(ハウスの開け閉め)、ハウス内を歩くときも手を上げて高いところの状態をチェック、などなどデータは使うもの、最後は自分の五感で判断。取材に対応しながらも、常に意識はピーマンに向かっている様子でした。
ピーマンの下の方には垂れ下がった枝もちらほら。「剪定しないのですか?」尋ねると、11月に収穫も終わった枝だし、わざわざ切り傷を作ることは病気のリスクをあげることにもつながるから、と納得の理由。作業のための作業をしない、省力とリスクヘッジ。どの説明もすっと入ってきます。
「化学農薬?効きません〜」害虫を食べてくれる、害虫の天敵”クロヒョウタンカスミカメ”を探しながら聞いた農薬の話。貴重な土着天敵のクロヒョウタンはネオニコチノイド系の農薬はアウト。化学農薬は一網打尽に益虫までも殺してしまい、まれに害虫で生き残る個体がでて、その子孫が繁栄し、結果“技術”として安定しない事例が多いため使わない、と瀬治山さん。
ヒメカメノコテントウやダニやクモやアリなど小さく多彩な生態系がハウス内のあちこちでドラマを展開。「蟻がいると(アブラムシに)気づきやすくなるんですよ」。ピーマンを始めてから、虫が大好きになったそうです。
瀬治山さんのハウスは築約30年、特別な資材や備品は入れていません。ただ「間違い探しをするために、パソコン持ってきてセンサーつけただけ」。むしろ化学肥料は半分以下に、農薬は75%削減。それでいて秀品率は90%以上、収量もここ10年右肩上がり(平均反収)。仮説をたて最低3年かけて実証を繰り返し。同時進行は2つまで。同じ結果になるか?をひたすら検証。すべて結果論。
ただ農薬や化学肥料を使うだけでは経営がなりたたない、と宮崎の施設園芸農業に危機感を覚えています。外的要因で自分でどうしようもないのは、光だけ。天候ではない、と言葉を強めます。
金柑のハウスに向かう道すがらも瀬治山さんの話に聞き入る取材陣。瀬治山さんが小学校で話をすると「大きくなったら農家になります!」と宣言する子が毎回クラスに3〜4人は出るそうです。特に虫の話になると、男の子たちの瞳がキラキラとに輝くそう。
他方、「一生懸命ドラクエしてるだけですよ 笑」と冷静な瀬治山さん。ゲームみたいに面白いもの、中毒性があるもののよう。そしてその対戦相手は去年の自分。
金柑はピーマンほど手をかけてあげられていないんですけどね、と到着したハウス。枯れ草の下から野草がふわふわ生えています。夏には伸びた下草を刈り、そのまま敷き草にして、「虫の住処にもなるんですよ」と瀬治山さん。たわわに実った金柑、これも美味しい。ここでも生態系を大切に、殺虫剤の使用は極力抑えています。
取材日は完熟金柑の出荷解禁直後。本当にお忙しいタイミングでしたが、宮崎の施設園芸農業の強化につながれば、との思いで協力いただいたのが伝わってきました。今日もSNSでは、あくまでも客観的に言葉を選びながら、植物と向き合う視点を数値を交え論的に、かつユーモアたっぷりに瀬治山流に説きます。