入り口に門のように立つ二本の丸太にかかる歓迎の言葉、そして農苑スタッフさんの気さくな挨拶「こんにちは」「お疲れ様です」のおかげで、肩の力がふっと抜けました。
農苑に建つ大きなログハウス調の建物。背丈ほどに伸びた白いニンジンの花が飾られていました。キッチンもありワークショップや体験活動もできます。隣のビニルハウスには20人ほど座れそうな大きさの長机と椅子。ご飯を炊くかまどやリヤカー型のピザ釜もあって、心が躍ります。ここには、早川農苑が紹介された記事や、体験談、来訪者予定などが貼られ、たくさんの人が訪れている様子が伝わってきます。
5年ほど前に初めて訪問したときに、ゆりさんに「またいつでも来てください、ここは誰でも入れる農苑です」と言われたのを覚えています。農業研修生も、農業体験をしたい一般の方も誰でも畑に入れますよ、と。昨年、今年と母の日の頃には最盛期を迎えるカモミール摘みと農苑ランチをいただく企画も好評だった様子で、6月には「有機農業を広めたい」というタイからの視察研修体験も受け入れました。ゆりさんの人柄そのままの開かれた農苑です。
畑ではズッキーニが最盛期を迎えていました。先ほどまで降っていた雨に蝶は一休み、昆虫も葉裏で雨宿り。ナスの花の一番果も咲き、じゃがいも、玉ねぎ、紫玉ねぎ、枝豆、いんげん、大きくなったラデイッュなど夏野菜が豊作です。
早川農苑では毎日収穫、出荷をしています。契約スーパーや飲食店に納品したり、県内外へ発送したり。直接農苑へ野菜を買いに来るお客さんもいます。「うちは退職したスタッフも野菜を買いにくるの」。収穫体験イベントのお客さんが継続的に野菜セットを利用することも珍しくありません。農薬や化学肥料を使ってない野菜が食べたい、安心して食べられる野菜が欲しいというのが早川農苑のお客様。ここの野菜なら安心して食べられる。その信頼に応えるため、農苑のこだわりの一つが「有機JAS認証を取らないこと」。
ゆりさんは、有機JASで使用が認められている農薬があることに触れ「認証をとることで、(農薬を)使っている?と不安に思ってほしくない」と。苦しい時があっても、無農薬・無化学肥料栽培でなんとか工夫して作物を育てたいというのが、ゆりさんの変わらない想いです。
現在は綾町産の完熟有機堆肥を元肥に使い、畑のローテーションを組み、種をまき、草をとって日当たりをよくして、水はけもよくして、とシンプルな栽培。「土の中の微生物が活性化すれば、種の力で自然と目を出しおのずと育ってくれます」。
「百姓になりたくて綾に移住してきました」。藍染の服をまとい、流暢に想いを語り、柔らかく微笑む姿は従来の百姓のイメージではありません。
実は実家が営む繊維工場が工場誘致で宮崎に移り、その後農業資材を扱う会社となり、学校を卒業した21歳の時にはゆりさんも宮崎へ移住してきました。就農以前は農薬管理士の資格もとり、父親の後継者として社長を引き継いでいました。ただ、そこで農薬を使って体調を崩す農家さん達や、必要以上に農薬を散布している様子をみて、「このままでいいのだろうか」疑問が拭えなかったそうです。
答えを気づかせてくれたのは、あるかぼちゃでした。「農家さんが家の裏で育ったかぼちゃを「自家用の野菜で形もいびつで、見せるのも恥かしい」といいながら料理してくれたのが、とっても甘くて美味しかったんです!」とニッコリ。「これでいいんだ」、「いつかは自分も安心して食べられる美味しい野菜を育てたい」と思うようになりました。その後高校生だった次女由果さんが、農学部を志したことがきっかけで行動に移しました。現在由果さんは農苑で発送などを担当。「反響も大きく、次の世代にも本当に(こういう農業が)必要だと思います」と話してくださいました。
社長業と兼業ではじめた就農1年目。ここならいいよとあてがわれたのは奥地の山林。社員たちの協力で山を開墾し、スイートコーンの種を蒔きました。本当に手探りでのスタートで、当然のようにイノシシの食害にあい、畑はめちゃくちゃに。悲しみながらも畑でそのかけらを食べると「甘くてとっても美味しかったんです」。社員たちに振る舞うことも出来なかったのは悔しいし悲しいけど、イノシシのためにはなったのかな、とゆりさんは思いました。
「そんな恥になる農業をせんでも」「誰のためにやっているんだ」周囲の人に心無い言葉をかけられたり、「親の築いた財産を食いつぶして、家族や社員に迷惑をかけて・・・」自責の念にかられたり、「悪いことをしているのかな」と、夢に向かって努力していてもどこか気持ちは晴れませんでした。
ただ、イノシシの気持ちになったら、「悪いことじゃないんだな」と思うことができました。それからもゆりさんは諦めませんでした。想いが本物だと認められ、ようやく平地で今のところに畑を借りることができ、住所も綾に移して平成5年本格的に早川農苑をスタートしました。
いただいた100%生絞りの農苑ジュース。ゴクゴク飲みほしました。素材の味をそのまま食べていただくことが一番のごちそうだと、ゆりさんは語ります。
「私は毎日農苑のお野菜を頂いて帰るんです」外食は会合のときのみ。昼食はスタッフ全員でまかないを食べます。スタッフ数は現在10人ほど。料理担当社員が農苑取れの野菜やお米で調理。撮影後に取材スタッフでまかないを頂きました。見た目にも彩り豊かなサラダは、自家製紫玉ねぎのドレッシングが華やかさと旨味をプラス。枝豆や根菜たっぷりのカレーは加水なし、たっぷりの野菜だけでつくった100%野菜カレー。お茶も自家製の釜炒り茶。元気がでるランチを頂きました!ランチは予約制で一般の方も食べられます。
早川農苑では味噌やジャムなどの加工品も製造販売。「今の子どもたちはハウス栽培の野菜だけで育っているのが気がかりです。自然の味を見てもらいたい」、と最近では野菜の冷凍ピュレも商品化。カブのピュレはうまみたっぷりでそのままスープとして、里芋のピュレは里芋コロッケにやグラタンに、真っ赤なラディッシュのピュレはレモンを浮かべてジュースに、など離乳食やお年寄りにも食べてもらえるように、想いを込めて大切な野菜を余すところ無く加工。
畑と食卓の距離を近づけてくれる早川農苑。あなたの来畑も歓迎します。