トウモロコシはアメリカ大陸原産のイネ科の植物。コロンブスの大航海時代にヨーロッパへ種が渡ったのが世界中へ広まり、品種改良が進んで現在のようなスイートコーンが生まれました。トウモロコシの品種の中で、実に含まれる糖度の高い品種をスイートコーンと呼びます。
現在、西都市内の約240軒の農家でスイートコーン(ゴールドラッシュ)を栽培。「栽培講習会」や「出荷目揃え会」などで随時栽培基準や出荷基準を確認しながら、シーズン中約1000トンを出荷。農家は市内各地区にある最寄りの集荷場に納品、順次、主に関東へ向けて冷蔵トラックで運ばれていきます。
蛯原さんは農家代表としてメディア対応をすることも多く、今回も忙しい農作業の合間を縫って畑を案内してくださいました。
「農作物は、ものは言わんけん、大事にしてやったら絶対恩返ししてくるわ」撮影で足を運んだ畑は収穫まであと7〜10日の段階。収穫を待つ畑ですが、毎朝の見回りは欠かせません。
西都市で育てられているスイートコーンはゴールドラッシュという品種が主。日照時間に影響されますが、種まきから凡そ110日程で収穫を迎えます。
今年5月末に収穫予定の蛯原さんのスイートコーン畑、種まきしたのは2月7日(!)。ハウス栽培ではなく露地栽培で、です。膝くらいの高さに育つまで白ビニルの覆いをかけたままにして育てるそうですが、それでも真冬の一番寒い頃に種まきをすると知ってびっくり。
思わず聞き返すと、「温泉の中に入っちょけば、なんぼ雪が降ってん寒みねわ」的確な例えで、すっと頭に入ってくる蛯原さんの説明。いい土は温かい。ビニルの中で多湿にならないよう換気に気をつけながら、大きくなるのを待ちます。
生育初期に低温にあたって育ったスイートコーンは、その後の低温や干ばつに抵抗力をもつようになり、節の間隔が短く茎もがっちりして、倒れにくく丈夫になります。蛯原さんも「今年は(スイートコーンの)足元丈夫(に育ってる)」と納得いく様子。さらに夜温が低いとスイートコーンの甘みも強く糖度もあがります。西都市のスイートコーンは、メロンやマンゴーに劣らないほど糖度が高いのも魅力です。
西都では、日が昇る前に収穫を終えるのが鉄則。温度が高くなると、呼吸や酵母の働きが活発になり、せっかく蓄えた糖分が多量に失われ、糖度が下がってしまうためです。
月のない夜は真っ暗で、頭にヘッドライトを装着して収穫していきます。収穫日の昼間、蛯原さんは今夜収穫するスイートコーンの穂先を折り収穫の目印に。
蛯原家では、就職した息子たちも一緒に家族揃って深夜0時にスタートするのがお決まりのスタイル。2時か3時頃まで目印を頼りに全員で収穫して、家に持ち帰り箱詰めに移ります。
蛯原さんは家族にスイートコーンを預けるとまた一人畑に戻り、空が明るくなるまで取り続けるそうです。1日で約1500〜2000を収穫。朝になって休憩を挟み、全員で箱詰め作業を続け、8〜10時頃に最寄りの集荷場に納品して完了。
その後も、別の作物の畑や今夜の収穫の目印つけなどで、休む時間もありません。収穫は5月末〜6月中旬が例年ピークで、蛯原さんは寝る時間を惜しんで働き続けます。スーパーに並んでいるスイートコーンを手に取っただけでは全く想像ができない光景、これが現実です。
「適期収穫」がスイートコーン部会の合言葉。収穫が近くなると、試しに一本皮を剥いて先端まで実が詰まっているか、ちゃんと粒が色づいてきているかを目視で確認し、一週間ほど前に収穫日程の目星をつけるそうです。
スイートコーンの仕上げは太陽のエネルギー。曇天や低温などでエネルギーが足りないと、十分な大きさに育たず色づき不足にもなるため、天気予報もよく見て決めます。
撮影で伺った畑は収穫一週間前。にも関わらず蛯原さんに勧めてもらい、もぎたてをそのまま生で食べると、すでに甘くてジューシー。これでもまだ収穫適期じゃないなんて、と一週間後、同じ畑に収穫適期のものを見に再度行ってきました。ご好意で収穫もさせてもらいました。片手で茎を抑え、片手で実を斜め下に下ろすと、ポキっと折れてずしっとした手応え。最後の一週間で、粒も大きくなり実にハリが出て一回り大きくなっていました!
来るならいつでもいいよ、という言葉に甘えてしまいましたが、疲れが溜まっているご様子で、聞けば3日ほど寝てないそうで・・・。胸がいっぱいになりました。
蛯原さんの言葉には力があります。素早く無駄のない動きで移動しながら、やや早口で、ストレートに言葉を渡してくれます。
「人生短い、あと10年生きても3600日しかない。今日1日を有意義に使いたい、夜中も仕事出くいし、スイートコーンやっちょって良かった」とさらっとおっしゃいます。「自分で作った落花生やもちきびなんかも、ものすごい美味しいよ」。奥様が嫁入りにもってきたもちきびを、種取りし続けて25年。父を早くに亡くし母と二人で農業をしていた自分に嫁いできてくれて、今でも感謝の気持ちしかない、と話してくれました。
イネ科は土中の肥料成分を吸い上げる力が強く、蛯原さんは完熟堆肥をたっぷりと、化学肥料を極力抑えた土作りをしています。「種をまく前にもう決まっとよ、勝負が」、どんなに良くできた苗でも土が出来てなければ植えてもダメだと。ほぼ一人で3haの畑で年に2〜3作も野菜を育て続ける蛯原さん。言葉を失うと、「要所要所すればいいとよ」とあっけらかんと笑われました。
何が大事か、大事なもの・人への想いを忘れずに、一生懸命にやること。農業には本当に見えない努力や工夫や想いが詰まっていること。人は頭で食べるといいます、そんな野菜のドラマをドレッシングに、もっと野菜を美味しく食べてもらいたいな。たくさんの人に野菜の美味しさを届けたい、改めてそう思いました。