皮ごと丸ごと食べる珍しいみかん、金柑は宮崎が生産量日本一。金柑は柑橘の皮やワタに多く含まれるビタミン類が丸ごと摂取できます。中国南部原産の金柑は寒さに弱く、0度以下だと凍ってダメになってしまいます。早期出荷のものはお正月にも出回りますが、完熟きんかんは2月から3月にかけてが旬です。
金柑というと「金柑の甘露煮」や「金柑ジャム」など砂糖で煮込んだものをイメージされることが多いですが、ハウス栽培の完熟金柑は苦味がなく、甘くて大きくて生食用として出荷されています。内山さんも、糖度16度以上2Lサイズ以上の『完熟きんかん たまたま』を箱詰めしてJAに出荷していますが、直売もしています。
内山金柑園の直売所へ行くと「田んぼの金柑」と「畑の金柑」の2種類があります。「今日は田んぼの金柑なんですよ」と、(元)保水力がある畑田んぼで育った金柑は、実が大きく弾けるようなジューシーさと爽やかな後味が特徴。一方水はけのよい畑で育った金柑は、全体的に小ぶりで金柑らしいコクが強く色も濃く、大きいサイズになるとマンゴーのように強い甘味もあります。「お客様にはその特徴を伝えて、お好みのものを買っていただいています」。正直で丁寧な販売が印象的でした。
内山金柑園は金柑栽培を始めて今年で7年目、直売は5年目。約1町歩のハウスで金柑を栽培しています。これだけの面積がありながら直売率はなんと約95%!お客様に出した年賀葉書は700〜800通ほど。5年目にしてこの数字に驚きました。
取材中、内山さんが「お客様がうちの金柑を作ってくれたんです」、「お客様のおかげです」と繰り返されるので、詳しく聞いてまたびっくり。なんとお客様からの「酸っぱい」、「ジューシーさが足りない」、そういう声を真摯に受け止め、その理想にむけて味を改良していったというのです。そんなことが数年でできるものなのかと驚きましたが、刈り取った草をそのまま地面にかけおいたり、ミネラルたっぷりの水を葉面散布したり、理想の枝を出すための剪定や定期的な摘果、11月からはハウスを閉めて水を一切絶つなど、様々な工夫を重ねて、お客様からの「美味しい」をもらうことに成功しました。
「口コミには勝てません」「最初の頃は、金柑の味を巡ってお客様と喧嘩もしました」と冗談交じりに話す内山さん。その熱意は本物です。今では噂が噂を呼び、日本全国にその手塩にかけた金柑を送り届けています。
「おいしいと思ってもらえないものは売りません。完熟のおいしい金柑がなければ、直売所も閉めます」と直売所も不定休。日照不足が続き金柑が熟すスピードが鈍る時期には、午後から直売所を閉めることも少なくありません。「味には絶対妥協しない」。その絶対に曲げない思いが、「美味しい」とお客様を唸らせています。
「金柑は皮ごと食べるから、なるべく農薬は使いたくないんです」。就農した時から、目指しているのは農薬や化学肥料に頼らない農業。ハウス栽培で完全無農薬は難しいと言われていますが、今も目標にしています。
就農1年目から無農薬栽培にチャレンジし、1年目はそれなりにできましたが、2年目は今では想像できないほど無残な出来でした。収量も少なくなり、病気も多く木も弱ったので、翌年慣行栽培に戻しました。
それでも諦められなかった内山さんに新しい出会いがあったのが5年前。自分のイメージしていた栽培が出来そうだと、新しい栽培方法にチャレンジすることを決意。
内山さんが施肥管理の判断基準にする『月のリズム栽培カレンダー』には、月の満ち欠けと、それにあわせて虫の産卵や虫の侵入、果実が太るタイミングなど自然界の動きが記載されています。実際に、例えば農薬は県基準の三分の一以下に抑えることができるようになったそうです。
3年目から効果がでて、今ではすべてのハウスで取り入れています。理想と、「なんでもやってみないと気が済まない」という内山さんのチャレンジ精神が成功を引き寄せたのだと感じました。
収穫には手間を惜しまず、神経を使っているのが伝わってきました。この小さなみかんを目を凝らして見つめ、全体がオレンジ色に色付いているのを確かめると、金柑を手にとってハサミでチョキっと。本当に慎重に、完熟したものだけを収穫します。
取材の日、親戚の方が収穫作業に来ていました。年長の女性に声をかけると、「私はこの子を小さい時から知っています、まだ(農家としては)幼稚園生なんです、よろしくお願いします」。「おばちゃんにはかなわんわー」と照れる内山さんをみて周りの方も笑い、「収穫もチームワーク。朝からずっと金柑を見ていると、いい金柑か分からなくなる。
そういうときも、「これは◯◯ちゃんなら収穫する?」って聞いて2人で判断するんですよ。そういうことも多いですね」。
「収穫は太陽を背にして金柑を見て、しっかりオレンジ色がついたヘタの周りも青みが残ってないものを。皮の表面の粒が大きいものが美味しいですよ。」説明上手な内山さんから教えてもらい、私も見よう見まねで金柑を見比べながら収穫して食べ比べ。内山さんの的確なアドバイスで、ほどなく自分なりに好きな金柑が見つけられるようになりました。
内山さんの金柑は自家用の他、贈答用やお土産品としても人気です。今日も直売所には次から次へと車が立ち寄り、直売所の撮影も接客の合間を縫って対応していただきました。
「最初は自分も母も「いらっしゃいませ」すら言えませんでした」と、農家が直売する難しさを一通り経験した内山さん。「直売の魅力は食べ物を直接買えること」「うちは、予約は受け付けてないんです。直売所に来て、必ず食べて味を見てもらって、納得してから買ってもらうようにしています」。
食材を買うというのは、「口に入れるものを買う」という一番大事な買い物です。内山さんのこだわりから学ぶことがたくさんあります。
「毎年4月に入るころになると味が変わるので、金柑の販売も終了します。
実は金柑があまり好きじゃなかったという内山さんですが、お客さんの反響が何より嬉しく、励まされてここまできました。「これからもおいしいと言ってもらえる金柑を届けたい」、と家族で力をあわせて直売を続けていく決意を語って下さいました。