「表面に白っぽいブルームが出ていて、かつ表面を指がつるっとすべるようになると完熟の合図」と長谷川さん。西洋カボチャと違い、収穫後追熟しない黒皮かぼちゃは収穫のタイミングがとっても大事。長谷川さんらプロが認めた証として、ヤマイキマークと生産者名を貼り付けて販売します。
今回初めて黒皮かぼちゃを食べてその味わいには驚きました。一見黒くて小さくてずっしりしていて皮も実も固そうなかぼちゃですが、いつもの包丁で難なく切れました。
煮物や味噌汁はもちろん炒めものなどどんな料理にもあい、他の食材と調和しながら、柔らかいけど煮崩れしにくくて・・・、料理を重ねるたびに黒皮かぼちゃが好きになりました。
現在、日本で出回っているかぼちゃには大きく2種類あります。ホクホクした西洋カボチャが俗に言うかぼちゃで、栽培歴の長い日本かぼちゃの国内産地はごくわずか。生目地区はその希少な日本かぼちゃの産地です。
通称『日向かぼちゃ』。「日向かぼちゃのよか嫁女」と民謡にも登場するほど親しまれてきました。
長谷川さんは現在お父さまと一緒に、黒皮かぼちゃの栽培に取り組んでいます。
お父さまは黒皮かぼちゃ栽培歴50年以上の大ベテラン。コンテナいっぱいに黒皮かぼちゃを入れると(約25〜30キロ)、次々と軽トラックの荷台へのせていく作業を繰り返されていました。コンテナが重そうですね、と声をかけると「昔からやってるからな〜」と胃にも介さないご様子。受粉作業や脇芽を摘んだり、75歳を超えた今も現役で仕事をこなします。
ここ生目地区は昔から黒皮かぼちゃの産地でした。「昔はどこの畑にもあった」「どこの家庭でも食べていた」。今でも冬至や煮物などかぼちゃを使う料理には黒皮かぼちゃを使う家庭が多いそうです。
現在生産グループは11名。最年長は83歳、平均年齢もなんと70代後半!長谷川さんは「自分の代で絶やしたくない。新規就農者や若い農業者にも栽培の仲間に入ってもらいたい」と強い信念と使命で、黒皮かぼちゃの栽培にPRにと大忙しです。
長谷川さんは黒皮かぼちゃの味に太鼓判を押します。
何百年何千年と伝統野菜が種を受け継がれてきた理由は、「おせち料理に欠かせない」「いつも食べている漬物の材料」と食文化に欠かせない野菜であるというのはもちろん、シンプルに「おいしい野菜が食べたい」といういつの時代も共通する人間の欲求の表れでしょう。
昔は嫁入りする娘に自慢の種をもたせたり、「あの家の大根がおいしい」と噂になれば村のみんなが種をもらいにいったりしていたと聞きます。
生産量が少ないため量販店では滅多に目にしませんが、長谷川さんが交流してきた料理人の話からも、和食では今も黒皮かぼちゃが好まれている姿が浮かんできました。まろやかな甘みときめ細かな舌ざわり、醤油や出汁との相性の良さは他のかぼちゃにはないものです。長谷川さんの育てた黒皮かぼちゃも、多くが市場やJAを通して料亭へ送られているそうです。
もし黒皮かぼちゃを見かけたら、迷わず食べてみてください。
黒皮かぼちゃの美味しさは県外でも評判で、今も京都や大阪など京阪神地方を中心に、市場では最初に競りにかけられるほど注目の食材です。
午前8時半。黒皮かぼちゃの花も撮影したいとお願いすると、快く作業が忙しい早朝のハウスに入らせてくださいました。ハウスの中には黄色い花がふわふわ咲き乱れ、大きい花びら5枚がきれいな星形に広がっていました。
「なめてみますか?甘いですよ」忙しい作業の合間を縫って、長谷川さんが摘果した花を持ってきてくださいました。その花の蜜をぺろっとすると、蜜の味に目が丸くなりました。優しい蜂蜜の味で、ハチの気持ちになった瞬間でした。
黒皮かぼちゃは長い間自家採種を繰り返して現代まで伝わった、生きた文化財です(現在は産地として品質を均一化するため農業試験場で採種する種を使用)。黄色い花を見つめながら、一人そんな感慨にひたりました。
黒皮かぼちゃの受粉は手作業。丈夫な雌花を選び、受粉させるそうです。気温が上昇すると花はしぼんでしまうため、受粉作業は朝の重要な仕事。約12aのハウスに植えられた約2400株を毎朝一つ一つ見て受粉して回ります。その後受粉しない花芽を摘果したり、つるの誘引作業もしたり「2000株を1日に2〜3周して見て作業して回る」と聞いて、思わずため息が漏れました。
受粉から収穫まで40〜45日かかります。受粉後は実を肥大させるために1株に1個が原則で、40日ほど経ち最初の実が収穫できたらようやく次の実をつけます。
現在、黒皮かぼちゃは立体栽培が主流です。かぼちゃのつるを誘引し、株から上へと延ばし育てていきます。そのため、実がほぼ横一列になっている姿をみることができますが、そのかわいらしい姿に思わず手が伸びました。「小さいうちは皮に傷が入りやすい」と聞いていたので、触るのはためらいましたが・・・。
昭和40年代後半、栽培効率をあげてかつ生産調整ができるように、自然とハウス栽培へと移行したようです。
促成栽培といえば冬でも温暖な宮崎の得意分野。今ではキュウリとピーマンが主流ですが、実は黒皮かぼちゃはその先駆けで促成栽培のモデルを作った歴史もあったのです。
現在、長谷川さんは生産グループで唯一栽培に最新の天敵農法を取り入れ、傷や病気の原因を特定のダニを用いることで、なるべく薬剤を用いない農法を模索しています。肥料使いにもコツがあります。「黒皮かぼちゃは肥料が多くてもダメ、水が多すぎてもだめ。欲張ろうとするとうまくできない」と、少量でも養分をしっかり吸収しようとするかぼちゃの生きる力を遮らない栽培を追求されています。
今年、黒皮かぼちゃは、産地の特性や長年かけて確立された独特の生産方法を国が認定する『地理的表示保護制度(GI)』への登録を目指しています。長谷川さんの願いでもある、黒皮かぼちゃが未来へ継承されることを願ってやみません。