松本さんは静岡出身の24才。同僚も太鼓判を押す底ぬけの明るさに、弾ける笑顔と笑い声で、畑にカラッとした晴れ間のような空気を作り出す新福青果のムードメーカーです。
松本さんは都城市内の大学を卒業後、新福青果に入社して2年目のフレッシュマン。同期入社は3名で、今春の新入社員は3名です。ちなみに、新福青果の栽培担当部門の社員は8名で、平均年齢なんと26才。ほぼ全員が農業未経験者からの入社です。松本さんに新福青果を教えたのは、静岡の両親でした。テレビで紹介されていたのを見て、こんな宮崎の農業法人があるよ、と電話がきたのがきっかけです。
その後趣味の海釣りへ向かう道中で、その新福青果の会社の前を通っていることに気づきました。
就職活動をはじめて数ヶ月がたち、そういえばと新福青果のFacebookで情報をチェックしてから会社に問い合わせ、今時らしい就活スタイルで新福青果と縁がつながりました。松本さんの実家は静岡のセロリ農家。いずれは実家に戻る可能性が大いにありますが、それでも採用担当者全員一致で採用が決まったそうです。
ラッキョウは、中国原産でユリ科多年草の野菜です。砂丘などのやせた土地でも育つ丈夫な野菜。都城の土質にもマッチ。独特のすーっとする香りの元は硫化アリルで、血液をサラサラにし血栓防止の働きがあると言われています。シャキッとした食感と独特の香味が特徴的で、この代役をつとめられる野菜はなかなか思いつきません。他にも食物繊維たっぷりで食欲増進効果もあり、これから夏のカレーのつけあわせといえばやっぱりラッキョウ!新鮮なラッキョウは酢みそ和えでも食べられます。
宮崎は全国でトップ3に入るラッキョウの大産地。都城では7月頃から植えつけが始まり、翌年の5月頃から収穫が始まります。ラッキョウは甘酢漬けなどの加工品で出回ることが多く、青果ではあまり見かけません。それはラッキョウは芽が伸びるのが早く、長期保管が出来ない繊細な野菜だから。冷蔵保管が原則です。
新福青果ではラッキョウを一キロ箱、二キロ箱につめて、九州内外のスーパーや小売店でダイレクトにラッキョウを販売します。周囲の農家さんをまとめて自らが卸し機能を持つ、小売店へのダイレクト販売も新福青果の強みです。
松本さんはラッキョウの栽培管理担当。5月〜6月は機械に乗り、ラッキョウの掘り上げを一人で担当し、忙しい毎日を送ります。事務所で取材中にも鳴り出すスマホ。スタッフさんから連絡が入ったのか、スマホを手にソワソワ・・・。取材に同席している上司の顔をそっと見ると「そろそろいいですか・・・?ラッキョウが待ってるんで・・・」と許可を得るとあっという間に飛び出していきました。
ラッキョウの収穫・出荷は全て手作業。根を切らない様にそっと機械で土ごと持ち上げると、あとは手で掘り上げて、葉を切り落として根を切り落として、の繰り返し。
畑では中国人研修生やパートの方が中心になって、縦一列にコンテナを並べ、収穫しては前進の作業を繰り返していました。
松本さんは機械にのると、後ろをそっと振り返りながらも、どんどんラッキョウを掘り進めます。「草が生えていると機械に巻き込んだりして、気がついたら浅く掘ってたりラッキョウを傷つけてしまったりするから気が抜けない。土がどれくらい浮いているかを目視しながら、収量をあげないといけないからスピードも大事」。作業の合間には「ラッキョウは丸くなったらもう成長したということ。角があるうちはまだまだ大きくなる」と後輩に教える場面も。
新福青果が掲げる『農業の企業化』。休みが取れなかったり収入が不安定だったり、社会保険や労働保険にも入ってない、農業者の不安定な労働環境。その不安定要素をなくし、他の産業と同じような労働環境整備をしたい。その想いから新福青果では農業のIT化を進めています。
富士通株式会社と共同開発した『畑の見える化』を実現したシステムは、他の農家にも導入され始めています。事務所でパソコンを見せてもらいました。事務所の周辺に畑がたくさんあるのが分かります。
赤い点滅は2週間以上誰も見に行ってない畑。担当者は、赤い点滅の畑がないように、畑を巡回します。
畑ごとに毎日の作業履歴や作業時間が入力され、売価設定をする際の原価の根拠になります。毎日の入力は「早い子で5分くらい」と使い方もシンプル。松本さんにシステムの活用について尋ねると、ちょっと考えて「去年のラッキョウの植え付けの時期や収穫時期などの栽培履歴は良く見ました」と当たり前に使っていた様子。ラッキョウ担当一年生でも去年のデータがあれば、1.5年生くらいにはなりそうです。
「ノリ(松本さん)は、もううちの息子です」。取材中に帰社した新福社長。これまでの農業人生や新福青果の取り組みを聞きたいと、日本全国から講演依頼が絶えません。社長は松本さんの隣に腰かけると、これからの農業について、澱みない口調で想いを語ってくださいました。
農業は生命に関わるもので一番大事なこと。それが今は「売った買ったの世界」と言われている状態だと嘆き、もっと農業を消費者に近づけるためにも、感性や視点などがもっと必要だと。「この子たちのいいところを伸ばしてあげたいんですよ」「農業のフランチャイズ化も考えている。皆が、明るく元気にできる農業をしたい」と松本さんに温かい眼差しをむける社長。初めての人には目からうろこのお話、松本さんは何回も聞いたことのある話のようでした。
農業は実家の手伝いしか経験したことがなかったという松本さんですが、里芋やゴボウとも格闘し、今ではすっかりこの地方の農業に馴染んだ様子。その秘訣について「何をしたらいいのか分からない、ということはなかった。一年目はしっかり一人の先輩が教育係でついていてくれて、分からないことも聞きやすかった」。教育係といっても6〜7才上の同世代の社員。今後の目標について尋ねると「機械に乗る仕事も任せてもらえるようになったし、もっとうまく乗れる様になりたい」と新入社員らしい答えにほっこりしました。5年後10年後が楽しみです。