野菜も人も会社も。寄り添って一緒につくる-萩原毅

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萩原毅(はぎわらたけし)
宮崎市高岡町出身、在住。高校卒業後、宮崎市内の山形屋ストアに就職。青果担当になる。その後生産者直売所の店長を務めた後、実家の農業を継ぐ。代表になると全ての畑で有機JAS認定を取得し、経営規模を拡大。現在社員・パート合わせて16名を雇用。

  • 【住所】
    宮崎県宮崎市高岡町高浜36番地
  • 【電話】
    0985-82-2405
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野菜も人も会社も。寄り添って一緒につくる-萩原毅
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お客さんのことを全部知りたい

私が初めて萩原農園の野菜を見たのは、東京・恵比寿。デパートの地下にあるスーパーでした。宮崎の葉物野菜が東京で売られていることが珍しいのと、遠くから旅してきたように見えない生き生きとした葉っぱで、今でも覚えています。
萩原農園は「自分のものは自分で売る」というのがモットー。年に2回作付け計画をする春と秋のタイミングで、毅さん自ら東京や大阪のお客さんのところに足を運びます。あまり農家さんからそういう話を聞いたことがなかったので、すごいですね、と言うと「全てを理解してもらいたいから直接会って話したい。

自分のこともはもちろん相手のことも全部知りたい」。「面と向かって話をして、気持ちでつながっていることが大事だと思う」。人と人だから、と事もなげにいう。
毅さんがお父さんから経営を引き継いだのが約10年前。それから特に力を入れたのが、お客さんと一緒にお客さんのために野菜を育てること。現在全国13〜14カ所、東京から関西、沖縄まで卸しています。

香りとしなやかさと。品質を守るために

萩原農園では年間20〜30種の野菜を育てています。取材した11月半ばには、ほうれん草、チンゲンサイ、小松菜、春菊、水菜、大根、ニンジン、ショウガ、カブなど約10種類の野菜を出荷。それらをずらりとカゴにのせて写真を撮りましたが、どれもしなやかで香りがよい野菜ばかり。
春菊の袋に鼻を近づけると、ふんわりと漂う春菊の香り。ほうれん草はほうれん草の、小松菜は小松菜の、水菜は水菜の香りがしました。

茎や葉はしなやかで、まるで野菜がくつろいでいるみたい。ちょっと笑ってしまいました。作業場でも野菜が折れたり破れたりする姿をほとんど見る事なく、どんどん手作業で出荷作業が進み、山口や大阪など行き先別に分けられていきました。
「収穫のタイミングと出荷前の一手間がポイント」だと教えてもらいました。萩原農園の野菜は夕方に収穫し、予冷して5℃前後の冷蔵庫で一晩寝かせて翌日出荷。野菜の芯にこもった熱を完全に取ってから輸送することで、品質の維持が可能になるそうです。

適地適作で野菜に寄り添う

「高岡は水はけが良い土地」と毅さん。畝立てをしなくても野菜の栽培が出来ることに気づき、以来畑は畝立てしないで植えることも多い。観察した成果ですが「手間が省けるから」と笑う。連れて行ってもらった畑の土はサラサラで柔らかく、歩くと足が沈み、スニーカーには四方から砂が侵入。子どもたちを連れてくると、たちまち裸足になって遊び出すそうです。その気持ち、大人でもすごく良く分かるなぁ。そんな土の上で、朝日に照らされキラキラと黄緑色に輝く小松菜やほうれん草たち。思わず息をのみ、そして思わずため息。本当にきれい。

萩原農園が栽培で心がけているのは「路地栽培で旬のものを適期につくること」。ニンジンは12月頃、大根は11月半ばから収穫が始まります。そうすることで「薬をまかなくても野菜がある程度はできる」「野菜にムリのない環境で伸び伸び育てたい」と野菜に寄り添った栽培を大事にしています。
また苗は買わず、種をまくところから全ての野菜を育てます。種は消毒されてないもので、収量をあげるための接ぎ木もしません。育苗用のポットの土も手作りで、畜産を営む後輩からもらう牛堆肥にワラなどの有機物を入れ、切り返しを続けて半年かけて作ります。

売れるものは一緒につくる

取材中、「出来る限り要望に応えたい」という言葉を何回聞いたか分かりません。萩原さんは生産者ですが、相手が売りやすいように要望を聞いたり変えたり、情報交換を欠かしません。最近では、「野菜の容量を少なめにしてほしい」、という要望が多くなってきて、200g入りを150g入りで販売することが増えたと奥さんの亜里沙さん。実際には、容量が変わると袋も変わって使わない袋が出てしまうけど、それは負担だと思わない。

宮崎市内では山形屋グループ5店舗の青果コーナーのみ販売。「健康農園萩原」のコーナーがあり、毅さん自ら野菜を配達します。「並べながら話もできるし、野菜やうちの取り組みの説明もできる」「お客さんの生の声を聞ける」と、陳列しながらお客さんと話すのも毅さんにとっては大切な時間。「並んでいる他の野菜をみて、産地や値段や需要なども分かる」と情報収集も欠かしません。

野菜も人も会社も。マイペースに育てて

これからの目標を尋ねた時に印象的だったのが、「自分の手元を見ながら(無理のないように)続けたい」という毅さんらしい言葉。もちろん規模拡大をすることも視野に入ってきてはいるけど、品質維持・向上や既存のお客さんに野菜を届けられ続けることが大前提です。
「小さな子どもがいるお母さんも大歓迎です」。現在16名の社員・アルバイトが働く萩原農園。元料理人が社員として働くなど、初めて農業にふれる従業員も多いというから珍しい。それは従業員に求めるのが、農業経験ではなく、本人のやる気だから。それでいい。特に出荷作業をするスタッフは素人がほとんどだそうですが、広い作業スペースで各々が手元を見つめながら一心に手を動かす様子が印象的でした。

撮影中「集合写真を取ってほしい」とリクエストを受けて畑に集合したときも、毅さんと亜里沙さんを囲んで和やかなムードで、表情も良くて、あっという間に撮影完了。これからの時期出荷作業はピークを迎え、1日100箱出荷することもある。「アルバイト大募集中です」(毅さん・亜里沙さん)。
子どもの具合が悪かったらすぐに帰れる環境。ライフワークバランス重視。野菜と同じで、人も会社もムリのない環境で育てて行きたいというのが毅さんの想い。農家さんから相談受けることも多いのでは?と聞くと、笑って「そうですね最近多いですね」。両親から農業を継いだがこれまで通りのやり方でよいのか悩んでいたり、新しく販路を広げたいという相談だったり、経営者としてのアドバイスを求められることも少なくありません。そんな悩みについてじっくり話を聞いてあげたり、自分の経験を話したり、アドバイスしたり。「少しでも人の役に立てるならば」と悩みにも、寄り添う姿は変わらない。

  • ブログページ―おいしい野菜の見え方
  • 取材:大角恭代

    小林市在住。大学卒業後、㈱ファーストリテイリング勤務。2011年2月Uターン。野菜ソムリエ。たまたま食べた無農薬無化学肥料栽培の文旦に衝撃を受け、おいしい野菜の育ち方に興味をもつ。おいしいと思う野菜があると畑にいき、生産者と想いを語る。

    夢は『いつでもどこでもおいしい野菜が食べたい、広めたい』。

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