ネット販売歴12年。ありのままを発信-黒木健二・やよい

producer_profile01

黒木 健二・やよい
(くろぎ けんじ・やよい)

夫妻は中学の同窓生、梅の産地で有名な立野地区で梅農園を営む。栽培担当は健二さん、顧客管理・発送担当はやよいさん。インターネットの大手ショッピングサイトで梅の販売を始めたのは12年前で、ホームページで農園の様子やお客さんと交流する様子、梅の加工方法などありのままを発信。今では農園のホームページから毎年注文するリピーターさんも多く、今年も6月中旬まで梅の出荷作業が続きます。

アーカイブ (Archive)
ネット販売歴12年。ありのままを発信-黒木健二・やよい
  • producer_slide01
  • producer_slide02
  • producer_slide03

梅の下に広がる太平洋

「町内の人でもいったことがない人も多いっちゃないと?私も結婚するまで来たことなかったわ」という都農町立野地区。海のある都農町で、海から一番遠い山際の地区です。
立野地区では約30戸中20戸が梅を植栽。山道を登ると斜面一面に広がる梅園。「梅の花が咲く時期は圧巻よ」と黒木夫妻イチオシの梅の花見は、来年のスケジュールにメモしよう。元々こちらの地区はみかんの生産が盛んで、梅に転向し始めたのは20年ほど前からだそうです。
その後梅の花の話は口コミで広まり、毎年この時期になると地区外から人が訪れるようになりました。「地区の人の顔と名前はだいたい分かる。親の名前や職業までわかるから(笑)」。

数年前からはニーズに応えるように、ウォーキングコースも整備。約3キロのウォーキングコースは、梅園の間を縫うように歩くコースで、ウォーキング大会の時には地区の人が総出で参加者をもてなします。
山にある黒木さんの梅園からは、定規で引いたような宮崎の海岸線が見えます。海と空と陸と、それぞれ一直線に横に区切られた景色は爽快。お弁当持ってピクニックも楽しそう!とスタッフ一同ではしゃぐと「(梅園の)アルバイトさんたちをよんで、花見したこともあるよね、最近は忙しくてしてないね〜」と話す二人のガイドも楽しい時間でした。「あれが自宅の裏山」、「その近くにあるのが名貫川」「あー今日はシェラトンが見える(宮崎市内にある45階建てのホテル)」・・・。健二さんや子どもたちが夏に遊ぶという名貫川の清流が、水しぶきをあげて真っ白くなっていました。

きっかけは新聞記事を見て

私が黒木夫妻のことを知ったのは、「インターネットで梅を販売している、すごい梅農家さんがいるよ」と教えてもらったのがきっかけでした。
日々私が農家さんと接する中で、野菜や果物の販売方法が話題になることはよくあります。「農薬を使わないで育てたい」「そのまま食べても美味しい野菜を」「消費者に喜んでもらえる野菜を」と質を追求するスタイルの農家さんにおいては特にそうです。市場に左右されて一方的に値段を決められるのではなく、自分で決めた値段で販売するというのが、農業を続けられるかどうかの死活問題につながります。

黒木さん夫妻がインターネットで梅(最初はミカン)を販売することを思いついたのは、12年ほど前のある日新聞で見つけた「インターネットでドレッシングを販売しているドレッシング屋さん」の小さな記事がきっかけでした。「これはいい!」と思い立ったら即実行。二人で鹿児島まで行き講習を受け、楽天市場に出店。今でこそメジャーな方法ですが、当時は楽天市場もスタートしたばかりで認知度も低かったそうです。
その後けんぼー農園のホームページを立ち上げて、ある程度お客さんがついたところで販売窓口を農園のホームページだけに。現在に至ります。

ありのままの価値を、きちんと伝えて売る

「(農家の間で)高く売るのは悪いことだ、という風習があるっちゃわ。でも、ただ作るだけだともったいない」と直売の意味を語る黒木夫妻。「一生懸命作っているし、現状を分かって受け入れてもらえるなら、そういう販売をしたい」「(市場だと)去年は買い取り額が5キロ100円の日もあった。これだといいものはお客さんに届けられないし、続けられないよね」。明るく快活なお二人で、始めはインターネットで梅を売るコツや醍醐味を楽しそうに話してくださいましたが、話が進むうちに、少し落ち着いて真剣な表情でそう話してくださいました。
「ネット(で販売)ってすごくいい」「直接(お客さんに)販売できるってすごくいい」と12年の経験でそのメリットを十分に実感している様子でした。例えば市場に出荷すると、まず梅の大きさだけで『A品、B品、C品、規格外』という枠にはめられます。それにより農家からすると捨ててしまうような値段になる梅でも、お客さんが「傷が気になる、傷がないものを」とリクエストするとその『規格外』の梅もお客さんの元に届けて喜ばれる梅になります。

その時に、ただ大きさだけで梅を評価する枠は存在しません。「傷がない梅、移送中に他の梅にも傷をつけない梅」という消費者個人の要望だけが出荷の条件となるのです。農園でもこういったお客さんの要望を受けて、選果機にクッションを敷くなど次々に工夫改善も進めます。
市場やスーパーで取り引きされるたびに上乗せされる価格。ディスカウントショップの店頭やスーパーの特売で「安い」値段で販売されている野菜や果物は、本当に「安い」のでしょうか。
やよいさんは「お客さんの要望にきちんと応えられるのも、直売だからこそ」と、注文してくれたお客さん一人一人の要望に応えられるように、お客さんをがっかりさせないように、この時期になると真剣勝負の日が続きます。発送の多い日は昼食を取らないで作業に没頭することもあるそうです。「お客さんも農園もどっちもハッピーになれる販売をしたい」と力が入ります。

信頼の積み重ねで、梅を売る

栽培管理や収穫は健二さん、ウェブサイト更新・発送・顧客管理はやよいさんが担当。二人はお互いの仕事を線引きし、それぞれの役割のなかで全力を発揮します。毎年注文を欠かさないリピーターさんも多い中、傷がついていると痛みも早くなるため、スピーディかつ丁寧に梅を選り分けて、傷がある梅をよけていきます。「お客さんをがっかりさせられないから」と真剣な目。
注文が大量に入ると、一日に100件以上出荷する日もあるそうです。その時も役割は変わりません。朝日とともに健二さんが梅の収穫に出かけ、やよいさんも子どもたちを学校へ送り出し家事を済ませると出荷準備に入ります。出荷用の箱や同封物を用意し、健二さんが帰ってきたら選別開始。「梅は鮮度が命だから」と、けんぼー農園では収穫したら早めに出荷出来るよう、全力を尽くします。

取材した5月のゴールデンウイーク開けは出荷が始まった頃でギリギリ取材対応可能な時期だったそうで、「それ以降は、取材対応できるかお約束は出来ません」ときっぱり。
そやよいさんが更新する農園のホームページはありのままの日常が綴られていて、ほっこりと温かい気持ちになります。息子さんの学校参観日の話から、梅の剪定の話からお勧めの梅の加工方法まで。「最近はなかなかホームページの更新ができてなくって」というやよいさんですが、何年もかけてコツコツ記してきたページの数々。インターネットで買い物をするときに、この人になら頼んでも大丈夫かなと思わせるのは、何も特別なことをするのではなく、ただコツコツと信頼を積み重ねていくことだけなのかもしれません。

ガラスの梅

「栽培(方法)は普通よ」という健二さん、一番気を使うのは剪定だそうです。けんぼー農園では、肥料は豚の堆肥を中心に使い、4月上旬の実が太る時期に化成肥料を追肥。元々日本でも歴史の長い梅は栽培しやすく、健二さんによると、他の果樹類と比べて梅は慣行栽培でも農薬や化成肥料の使用量が、比較的少ないそうです。ただ、雨の日に収穫すると梅の表面が痛みやすいため、毎年6月は空とにらめっこする日々が続きます。
けんぼー農園では、都農インター近く、自宅の横、山の中腹と、標高の違う三カ所で主に梅を植栽。そうして収穫の時期をずらすことで、長期間出荷できる体制を整えます。
品種は主に3つ。鶯宿(おうしゅく)・南高(なんこう)・白加賀(しらかが)です。取材した日は梅酒などにお勧めで比較的小粒の梅、鶯宿の収穫日。辺りには爽やかな梅の香りが漂っていました。

私も初めて梅の収穫をさせてもらいました。滑り止めつきの手袋で一つ一つ手で摘んで、籠に入れます。枝と枝の間から顔を出して腕を伸ばし、一気に収穫していきます。途中、腕が当たって枝が揺れて、梅が地面に吸収されてしまいました。
高いところから落ちたのにリバウンドもせずそのまま地面に留まる梅。急いで脚立から降りて梅を拾うと、無惨にも深いヒビが走っていました。「一度落ちたらダメよ」。両手ですくいあげ、ごめんねと謝りそっと地面へ。周りにも散らばる梅。風がふいて枝から落ちた梅でした。また枝が揺れて表面に傷がついた梅もありました。遠くまで運ばないで、すぐに加工出来れば使えそうなのになぁ。私は梅干しが大好きで、梅は身近な存在です。来年は自分が収穫した梅で梅干しを漬けたいなと思いました。

  • ブログページ―おいしい野菜の見え方
  • 取材:大角恭代

    小林市在住。大学卒業後、㈱ファーストリテイリング勤務。2011年2月Uターン。野菜ソムリエ。たまたま食べた無農薬無化学肥料栽培の文旦に衝撃を受け、おいしい野菜の育ち方に興味をもつ。おいしいと思う野菜があると畑にいき、生産者と想いを語る。

    夢は『いつでもどこでもおいしい野菜が食べたい、広めたい』。

PAGE TOP