宮崎市高岡町。地を這う梅として有名な樹齢400年の月知梅、その近くに野村さんのご自宅はあります。高岡町は古くからみかんの産地として有名です。古くは温州みかんの栽培に始まり、高岡文旦という地名を冠する柑橘もあるくらいです。直売所や道の駅、温泉施設、どこに行ってもいろいろな柑橘類に出逢える町です。
野村さんは町内に3町ほどのみかんの山を管理しています。金柑600本、レモン100本、ゆず30本、スイートスプリング、日向夏・・・など本数が少ないのも入れると、実に15種類の栽培に取り組まれているそうです。
「発想を変えないといけない」「新しいことに取り組みたい」。野村さんはお客さんの要望に応える形で徐々に栽培品目を増やしてきました。それぞれに栽培方法が違うのはもちろん、山ごとに日当りも土質も違います。栽培のポイントとして「適地適作が一番大きい要因」だという野村さん。「その土地にあえば農薬や肥料は少なくても済む。」まだまだ研究は続いています。
就農時は温州みかんを主に栽培していた野村さん。現在は宮崎でも少ないレモンの栽培をしている農家として、見学や取材を受けることも多いようです。就農して約20年。「お客さんと話していると発想(新しい展開方法)が見えてくる」と話す野村さんは、みかんを直売所に出品したりお客さんと話したりしているうちに「値段や流通が見えにくい今までの農業じゃなくて、面白い農業がやりたい」「生産から販売まで自分で出来るようになりたい」と思うようになりました。そしてあるとき「レモンの栽培をしてみないか?」と言われたのをきっかけに、10年ほど前からレモンの栽培に取りくみはじめました。今ではハウスの骨子を越えるほどの大木です。ただ、順調に収穫があがるようになったのは約5年前から。試行錯誤しながら、栽培基準や収穫基準も当てはまらない中、手探り状態で進んできたレモン栽培でした。
収穫の時期を迎えるレモンは、淡い黄色のレモン色。「本当にレモン色!」と取材陣一同見入ってしまいました。手に取ったレモンは、今まで手に取ったどのレモンよりも固くてがっしりして、大きい一個でした。
レモンは9月に収穫が始まり、12月末までに収穫を終えて貯蔵して出荷を続けるのが一般的です。野村さんのところでは木に成らせたまま5月まで収穫を続けた年もありました。レモンは寒さに弱いから、他県だと寒くて枯れてしまう。しかも、木に成らせたままでは木に負担もかかります。それでも「宮崎ならでは、この土地ならでは(野村さん)」、この土地ですくすく育ったレモンは、今も毎年枝を伸ばし続けています。
野村さんが「あっちの山、こっちの山」という沢山ある山の一つに急斜面に日向夏が植えられている山があります。そこには「ほとんど手を入れなくても毎年沢山実が成る」という樹齢30年を超える日向夏の古木が並んでいます。一般的に、他家受粉で実をつける日向夏には人の手による受粉作業が必要です。それは日向夏以外の柑橘類の花粉を採取して乾燥したものを着色し、一つ一つ手作業で受粉させる作業です。それもここではミツバチの仕事。明るい黄色の実がついた日向夏の木の枝は、とっても重たそう。びっしりついた葉っぱも厚みがあって、たくさんついた実を落とすまいと頑張っているようでした。
山の北側にある日向夏畑ですが、一目見てこの山が大好きになりました。ここでは除草剤も使いません。山の土はふかふかで、急斜面もクッションマットのついた階段の上を歩いているようでした。
日向夏は宮崎生まれの果物です。酸味が効いてふわふわの白皮も食べられるのが特徴の甘酸っぱさが心地よい柑橘です。完熟よりも一月ほど早い時期でしたが、頂いた日向夏はすっきりとした酸味がとっても心地よいものでした。日向夏はウイルスにかかりやすく、一般的には長くても25年程で植え替えの時期を迎えるそうです。
野村さんは、みかんを美味しく食べてもらうためのあるこだわりがあります。それは出荷時期を指定すること。「基本的にこちらから、いつ、何が出荷できるのか」を取引先にFAXで知らせてから注文を受け付けます。
もちろんいつでも出荷はできる。でも「甘いか、酸っぱいか」どちらかの味がしっかりしているのがミカンの持ち味だと語る野村さんは、酸っぱいレモンを始め、それぞれの持ち味が存分に生きている状態での出荷を心がけています。
「おいしいみかんて何?」種類が多く、質問を受けることが多いのも柑橘ですが、自分なりの方針を持ち、それを貫く方法を探し、それを実践する野村さん。「(何か新しいこと、人と違うことを始めようとしても)始めはムリかもしれないけど、見てくれる人がいたらそこから展開が開けて広まるかもしれない」。丁寧に、でも旧来の方法にとらわれない柑橘の栽培や販売はこれからまだまだ広がります。
一つ一つ手摘みのみかんを最適な状態で出荷したいと、野村さんは基本的に注文を受けてから収穫して発送します。取材当日の金曜日には、東京から3ケース5キロ分の注文が入っていました。週明けの月曜日の注文は30キロ。その一つ一つに丁寧に対応をしている野村さん。現在は仲卸業者への販売がメインですが、今後はネット販売も始める予定で、栽培品目も多品種に広げ「1年を通して消費者に旬の果実が届けられるようになりたい」と夢を抱いています。
柑橘栽培が盛んなこの土地では「同じ品種なのに値段が違うこともある。その時に何で値段が違うのか、その理由をこだわりを自信を持って伝えられるようにならないと」。また「(柑橘の)種類によって旬の時期が違うが、お客さんからはいつが旬なのかが分からないという声が多い。だから旬の柑橘を定期的に直送で送れるようにしたい」。今後の展開も見据えて、今日も注文に丁寧に応え続けて行きます。