畑の中に入ると、大人でも肩をすぼめずに歩けることに驚きます。ぱっと見ただけで、他のどの畑よりも畝幅が広いのが分かります。畝の幅は約75cm、通常のオクラ畑の約2倍の広さです。
山口さんの畑は除草剤を一切使いません。その代わりに使うのが大きな除草機。慣行栽培ではオクラ畑は畝間が狭く、しゃがんで手で抜くか、除草剤に頼らざるを得ません。そこで、畝間を広くとって「草の高切り」をすることで除草対策をされています。
「草の高切り」というのは初めて聞いた言葉でした。通常畑の草刈りは、地面すれすれのところで草刈りをします。「草の高切り」とは地面から10cmほどの高さで草を刈ることで、「オクラの成長を妨げないところで虫のすみかとなり、オクラの害虫を食べる天敵のすみか」を作り、少しでも農薬を使わなくても良いように、と考えてのことだと話してくださいました。
畑を案内してもらっている時に「これぐらいがおいしいよ」と言って教えてもらったのは5cmほどの小さなオクラ。山口さんが「姫オクラ」と呼んでいるオクラです。姫オクラは全身を柔らかな産毛に包まれて、手にとるとほんのりしっとりふんわり。ものすごくかわいい。
そんな姫オクラは、口に入れると爽やかな香りが立ちます。磯の香りのような風味をほんのり感じて、鬼ヒトデを堆肥に使っていたことを思い出しました。もしかしたら、山口さんの畑が海から1キロも離れていないからかもしれないなーとも思いました。風向きによっては、波の音が聞こえてくる日もあるそうです。
オクラ特有の粘りを楽しみながら食べていくと、あっさり一つ食べてしまい、さっぱりした後味の中に臭みはなかったです。
鬼ヒトデは駆除の対象です。大型の珊瑚で、時に60cmにもなります。時に大発生し、珊瑚を捕食することもあります。そんな「駆除した鬼ヒトデを何とかできないか」という依頼が山口さんの所属するNPO法人レインボーツリーへ持ち込まれ、それに応えようと山口さんが取り組んだのが「鬼堆肥」。元畜産農家で、堆肥作りに定評のあった山口さん。「匂いがキツい」という鬼ヒトデ最大の難関はその日のうちにクリア。
鬼堆肥開発で、山口さんが一番研究したのが、その配合。独自に発酵・乾燥・粉砕加工して作った鬼ヒトデの粉末に、牛堆肥を混ぜて作られるのが鬼堆肥。その鬼ヒトデと牛堆肥の配合を変えて、現在の比率に落ち着いたそうです。
12月に鬼堆肥開発に取り組み始めてから約半年。初めての取り組みであるオクラは、畝幅が広く植えたオクラは約半分でしたが、一反当たりの収穫量は他の畑に劣らない量で推移しているそうです。実際に山口さんのオクラの店頭販売を検討しているスーパーでの実験によると、通常のオクラの約2倍日持ちがしたそうです。
山口さんは「家庭菜園でもいいから使ってほしい。自分で作った安心な野菜を食べる人増やしたい」と消費者のための資材としての使い方を一番に考えられています。
「自分たちが育てた農産物は、必ず誰かの口に入るもの。体に害になるものは使えない」と山口さん。「激しいアトピー性皮膚炎の子どもをみてショックだったことが忘れられない」そうで、それが肥育農家から畑作農家に転換してすぐの頃。それから20年来その思いを持ち続けたまま、誰が口に入れても大丈夫な野菜づくり、を続けて来られているそうです。
山口さんたちオクラ農家さんは、通常ビニール製の合羽を着て作業しています。オクラの表面にある産毛の部分に触れてかゆくなるためで、作業着を着るだけで汗が吹いてくる蒸し暑さが毎日です。そのため早朝4時頃から畑にでて収穫などの作業をする人は多く、除草剤などの薬品に頼らないでオクラを育てるということは、本当に大変な作業だなと思いました。取材や撮影の間も容赦なく照りつける日差しに、そう思わずにはいられませんでした。