木佐貫さんのハウスでは、12月からスナップエンドウの収穫が続いています。スナップエンドウは主に都城市内のスーパーや生協に出荷。現在、隔日で収穫・出荷作業をされています。
そのスナップエンドウが肉厚なことに驚きました。まるで小さなグリーンピースのように実が丸く、それを包むサヤの部分も厚みがありました。理由を尋ねると、「少し木が疲れてきたからなぁ」と家族の体調を気遣うような回答。現在収穫しているスナップエンドウがシーズン終わりの時期に近づき、光合成でつくった栄養を、根や葉を延ばす栄養成長より、子孫を残そうとする生殖成長に使うように植物が変わってきたから、ということでした。
頂いたスナップエンドウをさっと湯がいて頂きました。甘みが強くて味が濃く、かつ食べ応えのある、肉厚という表現がぴったりのスナップエンドウに大満足。脇役じゃなくて主役になれる、植物のパワーが集結したスナップエンドウでした。
今育てている注目のお野菜、それは3月末〜4月頭から収穫開始予定の早期栽培トウモロコシ。これまでいろいろな品目を育てる中で「植物から教えてもらった」という栽培技術で、初めてトウモロコシに挑戦です。「野菜の品目は違っても、どれも同じ植物。基本の植物生理は一緒」だそうです。
今月の「食のイベント」で紹介しているマルシェ日南ではトウモロコシの試食販売もする予定だそうで、楽しみです。
冬はスナップエンドウ、春はトウモロコシ、と毎年新しい品目の栽培に挑戦する木佐貫さん。栽培するときのポイントを伺うと、少し考えて「観察することかなー」と答えてくれました。特に観察するポイントは、葉っぱの色と厚み、節間の間隔だそうです。
昨秋ハウスにお邪魔した際に「ハウスの中の植物の葉とハウスの外の植物の葉の色がなるべく近いのが、植物にとって良い環境」と教わったことが思い浮かびました。「(葉や節間などの)小さいところをどうするのか」、「どうなるようにハウス環境をコントロールしてあげるのか」の積み重ねが大事だと。
また、理想のハウス内環境に近づけるため、毎日されていることがあります。それは「ハウスの開け閉め」。日が昇っている時間にハウスを閉め切ることはしません。それは「空気が動かないと植物体内の水がスムーズに流れないから」。水は人間に置き換えると血液。水は、植物にとって必要な栄養素や、光合成に必要な物質を根や茎や葉っぱに運びます。水がスムーズに流れないと、病気になったりしやすいのだそうです。
観察を重ね、植物自体が元気に成長できる環境づくりが木佐貫さんの農業です。どうしても自然環境とかけ離れたものになってしまいがちなハウス栽培。「ハウスの中と外との環境の差をできるだけなくすように」五感を活用する農業技術でそれをカバーします。
木佐貫さんの農業はシンプルです。農薬・化学肥料に頼らない農業を実践している木佐貫さんが使う資材はミネラル水だけ。また、ハウスの作物切り替えの際に行う畑の準備方法もシンプルです。
ミネラル水とは天然鉱石である花崗班岩から多種類の微量ミネラルを抽出し、水に溶かしたミネラル水溶液です。「現代の土壌はミネラルが足りない。微量要素と云われる、マグネシウム、モリブデン、鉄、亜鉛、ホウ素、銅、マンガンなどが欠かせない」そうです。ミネラル分たっぷりの栄養価の高い野菜を育てるためにも必要だそうです。葉面散布するのも、土壌冠水するのも全てミネラル水を使われています。
次の作物を育てる畑の準備は、素人の私にも分かりやすいものでした。まず収穫が終わった植物を細かく砕いて土に混ぜ、乳酸菌や枯草菌をまき、有機物の分解を促します。そこに「植物から実りを頂いた分だけ」の堆肥をプラスします。ただ、そこも様子を見ながら進めていくのが木佐貫さんの技。乾燥すると分解が進まないから様子を見ながら表面に水をかけたり、一週間ごとに耕耘したり、植物が分解されて行く様子をしっかり確認しながら進めていくそうです。
木佐貫さんは元々専業スイートピー農家でした。
ご両親と一緒に、就農のきっかけになったスイートピー栽培をするため、平成12年に都城市から日南市北郷町(旧北郷町)に移住されました。気象条件からスイートピー栽培に適した環境にある北郷町を選び、智嗣さんが同町内のスイートピー農家で1年間研修をした後、家族3人でスイートピー栽培を始められたそうです。
数年前に智嗣さんはご両親から経営を受け継ぎ、代表として木佐貫園芸を切り盛りしています。生産、販売の傍ら、スイートピーの観光農園も営んでいます。「お客さんが誰かに花を贈りたい、と思ったときに思い出して貰えれば嬉しい」という気持ちから、接客も自分でされているそうです。
木佐貫さんは、この春からある新しい挑戦をスタートしました。
それはオリーブの栽培です。日南で「オリーブ栽培を成功させる」のが夢です。
2013年3月8日午前中、一緒に植物の勉強をしている仲間や話を聞いて集まってきたメンバーで一斉植樹を行いました。私も参加してきました。赤土の水はけのよい畑でした。そこに80本、植えました。
現在、国産オリーブは約95%が小豆島産。それが、消費者ニーズの拡大にあわせて、近年九州を中心に小豆島以外で積極的に栽培に取り組むグループや自治体が増えてきているそうです。ただ、結実が不安定で、収穫量を確保するのはなかなか難しいのが現状のようです。どのような土壌が栽培に適するか、効き目のある資材も研究中で、原因がはっきりしないと言われているようです。
日南市でも「日南オリーブプロジェクト」が動いています。日南市の温暖で雨の多い気候風土は、一般的にオリーブ栽培にむいているとは言えないようです。ただ、木佐貫さんは「オリーブも植物。自分がこれまで培った観察眼をオリーブ栽培で活かして、しっかり結実するオリーブに育てたい」と意欲十分。「オリーブ栽培を成功させて地元に貢献したい」と、移住してきた土地への感謝の気持ちを忘れていません。
オリーブの木は例年6月上旬に開花し、10月から11月にかけて実が完熟します。今からその時が楽しみです。