黒木農園のある高鍋町染ケ丘は、冬になるとキャベツ畑が辺り一面に広がります。そのキャベツ畑の一角を横道に入っていった奥に、黒木農園はあります。車一台がやっと通れる道をすすむと見えてきたのは、野菜畑と茶畑と小さなトレーラーハウス。畑の奥には森が広がります。悠然と車の前を歩く猫を慎重に避けて、そっと車を停めました。
白、茶色、三毛猫風、まだら模様の猫たち。眠ったり、宙を見たり、毛づくろいをしたりと、私も車も一切気にも留めない様子です。ここは猫の楽園?それにしても気持ちよさそうにしています。
畑では、小松菜の収穫をさせてもらいました。
「落とす葉と残す葉は、葉っぱのつき方が違うんだよ。外側に落ちかかっている葉っぱは落として、こんなかんじで」と見本をみせてくださる寿雄さん。たまに甘えてくる猫の暖かさにほっこりしながら収穫です。
ハサミを軽く土にもぐらせるようにして、小松菜を根っこから切らせてもらいます。
仲良く両手を天に向けている様でちょっとほほえましい光景です。
由香さんが「うちは野菜は間引きしないよ、ちゃんと発芽するから初めから間隔をあけて種蒔きをするの」と教えてくれました。
夏の終わりに種を蒔いた小松菜は、約15~20cmで葉も柔らかい。優しい香りで色も濃すぎず、いい感じ。
外葉には虫喰いの穴がありましたが、中葉は外葉に比べて虫喰いの穴が少ないようでした。 由香さんと話しながら収穫していると、小さなハート型のある小松菜を見つけました。
なんだかいいことが起こりそうな予感。
畑にはいろいろな作物が植えられていて、初めて見る野菜の姿があちらこちらにあります。
赤かぶ、白かぶ、白菜、大根、白菜、赤大根、空芯菜、バジル・・・。一畝ごとに植えられている野菜が異なります。
大規模に栽培される野菜は、安定した作物ができるようにF1種など同一遺伝子を持つものがほとんどです。
同じ遺伝子ばかりだと、気候の変化や他の生物の動きにより、一瞬で全滅することもありえます。
例えば、畑一面の白菜が病気になったり、青虫が一斉にキャベツを食べ始めたり。
もちろんそうならない様に、現代農業では”農薬”や”化学肥料”を使う方法もあります。
しかし、黒木農園ではこれらを一切使いません。
例えば、10m×10mの範囲の土地に、100種の遺伝子が存在する事が適正であるとします。熱帯、温帯、砂漠で生物多様性の適正値は変わります。
トラクターで一気に耕し、草をなくし、虫を殺し、そうやって遺伝子が20種に減った畑では、その後何が起こるのか。
太陽や雨、生物など自然の力により、その土地の適正値を目指す環境の力が働くのだそうです。
なるほど、我が家でも密集して植わっている小松菜に虫が発生していることを、思い出しました。
寿雄さんは、大学時代に生物多様性を専門に研究し、現在の農業のやり方を選択しました。しかし、現代農業の仕組みややり方、他の農家のやり方を批判する言葉は出てきません。
「どこで折り合いをつけるのかは農家次第」だ、とそれまでと変わらぬ表情で話されました。
「農業はあくまでも農を業(なりわい)としていること。農家にとっての収入源」と現実を見据えています。「いくら収入が必要か、どういったものを消費者に提供したいか、自営業主である農家が自分で決めること」だと。横でうなずく由香さん。温和な様子からは見えなかった決意と覚悟が伝わってきました。
なるべく虫がつかないような丈夫な野菜を育てる努力をしたが、どうしても病害虫が発生してしまった。そういった場合に、必要最小限の農薬を野菜のサポート的に使う、という方法は一つの選択肢としてあります。
しかし、黒木農園では「自然・人の多様性を鑑みる、認める、育む」をコンセプトに一切農薬や化学肥料を使わないことを宣言されています。