急峻な九州山地に覆われた奥日向路、耳川沿いに上流を目指して車を走らせていると目の前に突如現れるダム湖。一年を通してウェイクボードなどのレジャーが楽しめる石峠レイクランドのほとりにあるのが、栗菓子処日向利久庵です。元の西郷村、現在の美郷町西郷の名産西郷栗を用いた栗きんとんやスフレ、看板商品の栗利久、近隣の高校とコラボしたへべすを使ったどら焼きなど、和菓子、洋菓子を多数取り揃えています。
今回お話を伺ったのは、代表を務める弓削龍生さんです。弓削さんは高鍋町出身で高校を卒業後は県外へ進学、東京を中心にサラリーマン生活を送っていました。
その後、帰郷し事業運営をアドバイスするコンサルティング会社を経営、障がい者就労支援事業所や内装関係等の主に創業支援を行ってきました。そんな中、後継者のいない菓子製造会社の事業を引き継いで欲しいという話が持ち上がり、平成27年の夏から菓子製造業の経営に専念しています。なかなかできない決断ではないかと聞いてみたところ、帰ってきた答えは「とにかく美味しいから」というシンプルな答え。美郷町を代表する名産として外に発信できる商品は町の財産でもあります。菓子製造業の経営は、原材料を作る農家、加工場、会社の従業員など様々ところで雇用も支えています。弓削さんは、それが無くなってしまうのは惜しいという想いから、事業の継承を決断しました。
町内を車で少し走っただけでも沿道に大ぶりの栗が落ちているのをチラホラと見かける、車を降りて湖を眺めていると鳥の声が聴こえてくる。そんな豊かな環境で作られる日向利久庵のお菓子。店頭で弓削さんにインタビューしている間に買い物客が名産のお菓子を買い求めていました。
日向利久庵の商品は店頭販売だけでなく、電話注文や、インターネット、カタログ通販でも買い求めることができます。特に高齢者層が購読するカタログでの販売の人気が高いそうです。
経営を始めた当初、国内には多数の栗菓子の専門店があり、前の経営者から事業を引き継ぐ上でどう戦えば良いのかと弓削さんは考え続けていました。お店を引き継いで営業を開始するまでに約半年、経営に空白が生まれ顧客の新規開拓も課題でした。そんな中、お店の復活を待ち望んでくれていた多くのお客様の存在を知り、自社の商品の魅力を信じて、味を守り伝え続ける事でお客様も応えてくれるという手応えがあったと話してくださいました。
水を一切入れずに、栗に少しの砂糖で味を整えて手作業で練り上げた栗きんとん。栗餡に渋皮煮をのせて黒糖羊羹を上掛けした贅沢な栗利久。
美郷町までで出かけて行って手に入れる楽しみもある一方、通信販売等全国どこでも地元自慢の味を堪能することができます。商品や利久庵の存在を広く知ってもらうことで、美郷町という町を知ってもらい遊びに来てくれるようになって欲しいと話す弓削さん。
今後は海外にも目を向け、美郷町の故郷の味の魅力をさらに伝えていきたいと情熱を燃やしています。
一口食べてみると、丁寧な仕事ぶりや地元の食材への愛情がひしひしと感じられて穏やかな気持ちになれる、奥日向路美郷町、日向利久庵のお菓子。秋の行楽シーズンにドライブしながらお店を訪れるもよし、大切な方への贈り物へもよし。その魅力に是非触れてみてください。