今回取材にお邪魔したのは延岡市にある虎屋さんです。昭和24年創業、「菓子づくりは人づくり、菓子づくりはまちづくり」がモットーに、和洋のジャンルにとらわれない多様なお菓子の品揃えで、地元の人だけでなく延岡を訪れる観光客にも親しまれ、取材中にも買い物客がひっきりなしに訪れていました。
また、店内にはピアノの置かれた多目的サロンが併設されていて、写真や書、油絵などの多彩な個展やグループ展が2週間ごとに開かれています。
取材した日は、ガーデニングが趣味の地元の園芸ボランティアの方々によるグループ展が開かれ、山野草を器に生けた作品が並び涼やかな雰囲気でした。また、多目的サロンにはイスとテーブルが並べられ、購入したお菓子を店内で無料の飲み物と一緒に楽しむ事ができます。この店内で株式虎屋代表取締役上田耕市さんにお話を伺いました。
今、上田さんが一番力を入れているのは低糖質のお菓子作りです。昨今の食生活の見直しや糖尿病治療などのために糖質を摂ることに制限のある人でも、お菓子を美味しく味わって欲しいという想いから、低糖質のお菓子の商品開発を始めました。この低糖質のお菓子、饅頭やスポンジケーキなどを、砂糖や小麦粉・米粉などの代わりに代替原料を用いて作ります。
例えば砂糖はその代わりに植物由来でカロリーゼロの甘味料を使うなど手間をかけ知恵を絞って、糖質量を一個あたり5g以下にするよう工夫して作られました。こうして販売される低糖質のお菓子は現在5〜7種類が店頭に並び、また全国へ向けたインターネット販売も人気で順調に売り上げを伸ばしています。老舗の味と技術力をふんだんに活かして作られたこれらのお菓子は、低糖質ブランド「低糖アトリエTORA」シリーズとして販売されています。
また、虎屋では菓子作りに用いる素材にもこだわっています。低糖質の餡を作るために、糖質の多い小豆に代えて使われる大豆は宮崎県北部の高千穂町上川登集落特産の麻尻(あさじり)大豆です。麻尻大豆は、高千穂在来種ですが時代の流れの中で栽培する農家は減り続け、一軒の農家のみになったこともありました。しかし、麻尻大豆を原料に作られる豆乳や豆腐の味の力が見直され、地元農家の努力により作付けを増やしています。また、同じく糖質の少ない原料として用いられる胡麻は宮崎県三股町産のものを使っています。
現在国内で消費される胡麻は、99.9%は輸入に頼っているのが現状で、アフリカ、中南米、中国産が主な原産地です。国内での胡麻生産は全体のわずか0.1%。その貴重な国内産の胡麻は、宮崎県の南西部にある三股町で作られています。水はけのよいシラス台地で温暖な気候に恵まれて育つ「みまたんごま」は、農薬や化学肥料を使わず、植え付けや収穫も手作業で行うなど高い志を持って作られています。
こうして作られた商品のひとつ、「低糖質ひなた饅頭」を試食させて頂きました。低糖質といっても、餡の醍醐味であるほっとするような甘みは健在。口当たりの柔らかさが印象的で、もう一つつまみたくなる美味しさです。
上田さんが、低糖質のお菓子を作ろうとした元々のきっかけは、店頭でのお客様の声から。
「糖尿病で食事制限しているスイーツが好きな父親でも食べられる、一家団欒の時に一緒に楽しめるお菓子を作って欲しい」という要望でした。より多くの人にお菓子を食べて笑顔になってもらいたいと始めた、低糖質のお菓子作り。たくさんの知恵と努力で作られた、優しい味のスイーツが今日もどこかで誰かを笑顔にしていることでしょう。