今回、取材に伺ったのは宮崎県の西部小林市細野にある今釜屋さん。宮崎県産の素材を使った万能ダレを作る加工場と聞いて向かった先は、意外にも宅地が広がる郊外の一角でした。自宅敷地内にあるこじんまりとした作業場。小林市の永迫梨園産の梨を主な原料に作られる万能だれは、製造から瓶詰め、ラベル貼りまでひとつひとつ丁寧に手づくりされています。 梨の他に、玉ネギ、長ネギ、ニンニク、キウイ、バナナ、が入ったタレは「万能焼肉だれ」と「万能味噌だれ」の二種類。
特に、味噌ダレは甘い味を好む宮崎の人に人気で、野菜炒めなどにかけるだけで味が決まると評判なのだそうです。また、瓶詰めにされた万能ダレは開封して空気に触れることでワインのように味が開きはじめ、料理に使い続けるうちにさらに味わい深くなるという楽しみがあります。豚肉と玉ネギの炒めたもの、キャベツ、エリンギ、また厚揚げとも相性がよく、冷めても美味しいのでお弁当のおかずの調味料に重宝するとのことでした。
代表の今釜大作さんは、学生時代から飲食店でのアルバイトに従事し、大学卒業後は福岡県内のレストランに就職しました。食事を楽しみに来店するお客様の表情に気遣いながらの丁寧な接客やサービスを心がけ、自分の理想の店作りをしたいと独立。鹿児島県で焼肉店をオープンさせました。しかし度重なる水害により3年程で閉店。小林市に帰郷し、家業の木材卸の仕事に従事していましたが、鹿児島の常連客より「焼き肉のタレだけでも復活させてほしい」という要望が多くあり商品開発を志しました。
県内の食品に係わる研究開発・技術指導などの支援業務を行う宮崎県食品開発センターの協力の下、試作研究を重ねること3年。
その間に、タレの原料をリンゴではなく小林市内で生産された規格外の梨を使う、無添加素材の万能ダレを作るというアイデアが生まれました。年間を通して製造する万能ダレに対して、収穫の時期が決まっている原料の梨については収穫後すぐにペーストにして冷凍することで旬の味を保っています。タレ造りを始めた最初の年は、母親と二人で1tもの梨を剥いたとのことですが、現在は野尻町の農産加工センターに原料の加工を委託し地域との連携をはかっています。
宮崎県内外での物産展では、梨を使った無添加の万能ダレは買い物客の反応が良く、現在は、県内のデパート、スーパー、空港でも取り扱い、空港でお土産に買った人からの東京からの注文も増えているとのことです。
飲食店時代から、お客様への丁寧な気遣いを心がけてきた今釜さん。その思いを形にしようと出店した焼肉店は多くの人に愛され、閉店後もその味の復活を願う常連客の後押しで生まれたのが、今釜屋の「やみつき梨だれ」です。お話を伺っている中で、一からタレ作りを始める際にまず電話で問い合わせた保健所、そこから紹介された食品開発センター、そして提携している生産農家など、商品作りの道のりの中で出逢ったひとりひとりの方々の名前を挙げて感謝の気持ちをこめて話す姿が印象的でした。
これまで支援してくれた人々の思いを一つも無駄にしたくないと、今釜さんは作業に取りかかる前に、毎回必ず自作のレシピを読み返して、今日もタレ作りに臨んでいます。