4月に発生しました熊本大分の一連の地震に際しまして、大きな被害を受けた皆様には心からお見舞い申し上げます。今回取材のために日之影町へ行ったのは4月15日。前震と呼ばれる1度目の大きな揺れがあった4月14日の翌日に大分県と県境で接する日之影町のマロンハウス甲斐果樹園へ伺いました。
当日は真っ青な青空が広がる快晴。日之影町ならではの棚田と石段が広がる山あいの風景は緑が眩しく汗ばむほどの陽気の中、代表の甲斐喜夫さんにお話を聞きました。
お邪魔した時は、延岡市で毎年開催され、「お大師さん」の愛称で親しまれている今山大師まつりへ加工品を出品するための準備の真っ最中。マロンハウスでは、日之影名産の栗の加工品、栗きんとんや栗のプリンだけでなく、栗の繁忙期以外では加工場の施設とマンパワーを活かして、梅干しや漬物なども数多く製造販売しています。加工場での製造過程を見せて頂きながらの取材になりました。
甲斐さんが加工場を始めたきっかけは、栗栽培農家をしていた実家の栗を加工することで価値を高め、収穫のシーズンだけでなく年間を通して安定的に販売出来ないかと考えたことからでした。町の役場に勤めていた甲斐さんは、50歳で希望退職しました。役場に在職中に日本で初めての道の駅が地元日之影町にオープンしたことから、各市町村の名産品の販売するイベントの立ち上げにも関わり、加工品の製造販売のノウハウについて少しずつ知識と経験を積み上げてきました。
マロンハウスを代表する商品は栗きんとん「栗九里」です。品質日本一と言われる栗ブランド地高千穂・日之影くりを100%使用し、栗と砂糖だけを原料に添加物を一切使用せずに作る逸品です。一口頂いてみると、ほくほくとした茹でたての栗の風味をそのまま再現したような、素材の味を存分に活かした美味しさ。また、自然の栗そのままの味わいに近いため、お菓子づくりの原料としても人気が高いとのこと。秋から冬のハイシーズンには一日で800本販売するという人気商品です。また、加工場に併設する販売所だけでなく、日之影町内や延岡市にあるアンテナショップ、全国のデパートなどでも販売をしています。
マロンハウス甲斐果樹園のある日之影町は、近隣の高千穂町、諸塚村、椎葉村とともに、2015年12月「高千穂郷・椎葉山の山間地農林業複合システム」として、国際食糧農業機関(FAO)により「世界農業遺産」に認定されました。
山腹水路や、山腹に添うように段々に開墾された棚田での米づくり、林業、シイタケ・茶の栽培、焼畑野業などのこの地域の伝統文化が、未来の残すべき文化遺産として国際的に認められた形です。
今年4月から続く熊本大分の地震では高千穂町を中心に道路や水道などのライフラインに大きな被害を受けました。日之影町でも、高千穂町と日之影町を結ぶ県道が落石で通行止めになり、住宅が半壊するなどの被害がありました。
世界の農業遺産として認められたこの地域の風景や伝統に基づく人々のくらしを次世代につないでいくためにも、一日も早く元の暮らしへの復興を願い、また地元の人たちの雇用を支える各地の地場産品の加工場のますますの発展を期待し、応援していきたいものです。