新年おめでとうございます。皆様はどんな2016年を迎えられましたか?私は大晦日までお仕事をさせて頂き、お正月は知人の畑で大根引きをしたり、宮崎の美味しいお肉のすき焼きパーティーに参加したりと宮崎の食と農を堪能しておりました。2016年もこの「美和の出逢い旅」を通して、宮崎の食と農の魅力を伝えるお手伝いをできればと思っております。今年も宜しくお願いいたします。
さて、今回訪れたのは日南市飫肥。飫肥は、安土桃山時代の天正16年から明治の初めまでの280年間、飫肥藩・伊東氏5万1千石の城下町として栄えました。昭和53年に大手門が復元され、飫肥城周辺や、旧武家屋敷、商人町などは当時の面影を残し、多くの観光客が訪れます。
撮影と取材に行った日は12月とは思えない雨上がりの暖かさで、外での撮影では日焼け止めが必要な程の日射し。飫肥のメイン通りにある厚焼き卵の専門店「厚焼処 おびの茶屋」にお邪魔しました。
お城を中心に周囲には武家屋敷、さらに商人町が広がった飫肥城下町。今回取材したおびの茶屋があるのは、飫肥のメイン通りでかつては商家などが並んだ街道筋。現在は土産物店やバスセンターなどがあります。店主の久島佳朗さんは先祖代々からこの土地に住み、実家は金物店を営んでいます。久島さんは、高校卒業後福岡に進学し会社員をしていましたが、家業を手伝うために帰郷。昭和53年に飫肥城が復元し、それまで郷土料理であった厚焼き卵が観光客にも販売されるようになり、それから数年を経て、郷土の名物を観光客にも楽しんでもらおうと厚焼き卵の店を開きました。
飫肥の厚焼き卵は、砂糖、みりんを加えた溶き卵を一晩寝かせた後に裏ごしして銅鍋で焼き上げる和風のプリンのような佇まい。一般的に言われる「卵焼き」とはひと味もふた味も異なる郷土料理です。
当時は高級品であった卵や白砂糖をふんだんに使うため献上品でもあったと伝えられる厚焼き卵は、お正月や結婚式などハレの日の一品として地元の人の手で受け継がれてきました。
この厚焼き卵を実演販売し、郷土の特産品として観光資源にしようと久島さんは、金物店の倉庫を改装し厚焼き卵の専門店を開きました。久島さんのこだわりは、炭をおこして一品づつ直火で焼き上げること。一つの銅鍋で焼き上げるのは、実に卵20個分の厚焼き卵。約18㎝四方、厚さ5㎝、重さ5キロになる厚焼き卵を焦げ目がつかない様に丁寧に焼き上げて行きます。オーブンなど機械を使った方が仕上がりは早いのですが、炭火焼とは味や香りが異なり直火で厚焼き卵を仕上げる技術もあわせて後世に残していきたいと、久島さんは語ってくださいました。
焼き上がった厚焼き卵は、冷やしてデザート感覚で頂きます。かつては保存目的もあり砂糖の量は多めでしたが、現在は昔と比べると少なめとのこと。
始めは強火で艶を出し、その後はじっくりと弱火で焼き上げるため、表面の輝きや大きさのインパクトが観光客の目を引き、今や飫肥を代表する郷土料理となっています。また、店内での飲食も可能で、飫肥の町並みを散策中に一服してお土産として持ち帰る観光客も多いそう。
飫肥に遊びに来たお客さんが初めて食べた厚焼き卵を、リピーターとなって遠方から注文をしてくださるのが何よりも嬉しいと笑顔で話す久島さん。地元に足を運んでくれたお客さんに感動を与え、飫肥に来て良かったと納得して帰ってもらうために今日も炭火を熾し、色鮮やかに厚焼き卵を焼き続けています。