古くからの城下町で歴史と文化の町である高鍋町。その中心部にある黒木本店は、創業1885年(明治18年)。「百年の孤独」「中々」「きろく」等、風土に根ざした手造りの焼酎造りを守り続けています。
まずお邪魔したのは、黒木本店の応接スペース。昭和13年に建築された建物をリノベーションした歴史を感じさせながらも、モダンな雰囲気のある木の暖かみを感じさせる部屋で、株式会社黒木本店専務取締役の黒木信作さんにお話を伺いました。
黒木信作さんが酒造りに興味を持ったきっかけは焼酎ではなくワイン。学生時代、飲食業のアルバイトで接客の際にワインについてお客様に質問され、勉強していくうちに興味が深まり、大学卒業後にフランスへ1年間遊学しました。ワインという海外の文化に憧れて、醸造場を訪ねて見学したり話を聞く中で、ワインとは地元では「地酒」であり、その土地の文化や自然の恵みによって作られていることに気づかされた黒木さん。
憧れを持って追いかけていた海外の文化でワインに携わるよりも、自分の地元のお酒である焼酎を世界に広めていく仕事をしたいと、帰国後は家業である黒木本店で、土地の恵みに根ざした焼酎造りに携わっています。
土地に根ざした焼酎造りに取り組む黒木酒店の強みは、自社農園を持っているという点です。安心安全で目に見える農業を目指し2004年に設立された農業生産法人「甦る大地の会」では、約40haの農園で有機栽培や一般の農家では売り先の安定しない新しい品種の栽培などを行っていて、焼酎の原料となる麦、米、芋を生産しています。例えば、黒木本店の芋焼酎「山ねこ」は原料の芋に、この甦る大地の会で栽培されたものを全て使っています。実際にその農園を見学させて頂いたのは、10月の終わり。収穫を終えた広大な芋畑に立ち、土の匂いを感じながら深呼吸すると、「酒造りは農業である」の理念の下、土に触れ、収穫を喜び、その土地に根ざした焼酎造りを行っていることを実感しました。
また、焼酎を蒸留する際に出る廃液も自社でリサイクルを行っています。廃液の約9割が水分で扱いにくい点をクリアし、「肥料」そして、近隣の豚、鳥、牛の飼育農家が利用する「飼料」に生まれ変わるシステムを作りました。緩効性有機質肥料「甦る大地」は農地の土づくりや、原料となる芋、米、麦の肥料として用いられています。自社農園を持っていると、まず自身の畑でその肥料を使い品質をアピールすることができるというのも大きな強みです。こうして作られた肥料や飼料で育った農産物、鶏、牛、豚は焼酎のつまみにもなり、自然の恵みを循環させるサイクルが大きく描かれています。
ワインとの出逢いからフランスへ渡り、地元に根ざした酒造りの価値に気づき、地元宮崎の地域文化の一つであり家業でもある焼酎造りへと辿り着いた黒木さん。その焼酎の面白さを広く伝えるためには、まず今ある銘柄をブラッシュアップさせていくこと、そして自分の納得できる銘柄を打ち出すことが目標と語ってくれました。西洋の錬金術により確立された蒸留の技術と、アジアの麹からの酒造りの技術が九州でミックスされて現在の形となった焼酎造り。
その伝統を守りながら、現代の技術を使ってさらに酒造りを進化させ、ワインが広く世界で愛されているように、地元で愛される焼酎の味を若い人や海外の人にも楽しんで欲しいというのが、黒木さんの想いです。
土、水、原料、麹、製法に至るまでそれぞれにこだわりを持ち、地域や自然環境を大切に見つめながら造られる黒木本店の本格焼酎。そのストーリーを楽しみながらグラスを傾ける、そんな光景が世界中で見られる日が楽しみです。