宮崎県川南町にある香川ランチには鶏卵の選別作業を見学できる見学コースがある。近年猛威をふるった鳥インフルエンザの影響から立ち入りを制限する施設がほとんどの中、全国や海外からのバイヤーや地元の小学生まで誰でも見学できるように開放されている。(衛生上の安全対策の為、農場の見学はできない)
見学コースは、採れたての鶏卵をサイズごとに選別する大きなコンベア型の機械が1階にあり、作業の様子を2階からガラス越しに眺める形だ。廊下には、香川ランチの歴史を紹介するパネル、とうもろこしが6割をこえるという独自の配合にこだわりのある飼料のサンプルや自社開発の加工品などがずらりと並ぶ。香川ランチの工場の大きな特徴は、当日採れた卵の中で大きすぎたり小さすぎたりする規格外のものを、その場で割ってすぐに加工食品にする施設を持っていることだ。「有名メーカーと対等に競争できるのは、味で支持されているから」と代表の香川憲一さんは胸を張る。
宮崎県の川南町は日本三大開拓地の一つだ。香川県出身の祖父と北海道出身の祖母が養鶏業を川南町で起こし、香川さんは三代目として家業を引き継いだ。中学時代から音楽に目覚め、東京でプロとして活動をしていたが25歳で音楽の道を断念し帰郷。華やかな音楽業界とのギャップを感じ、半ば嫌々ながら実家の手伝いをしていた香川さんに転機が訪れたのは27歳の時。
近所のスーパーでセールの売り子として卵を売っていると年配の女性に声を掛けられた。「香川ランチの卵は美味しい。うちはここの卵しか食べない。いつもありがとう」その時感じた嬉しさが忘れられず、この気持ちは何かと思い返した時、頭に浮かんだのがかつてのライブ会場の風景。お客さんに「よかった!」と感動してもらったあの瞬間の嬉しさと同じだと気付いた時「これだ!」と確信した。
香川さんの言葉を借りると、ずっと求めていたのは「永遠の命」。人の心に永遠に残せるものは、音楽や芸術でしか造ることはできないと思い込んでいたが、食を通して感動を伝え続けることもできる。永遠の命を吹き込むことができる。農業なんて無理と悶々と過ごしてきた香川さんが、その仕事の魅力に気づいた瞬間だった。
食や農業を仕事にする素晴らしさを伝えることが使命と心に決めた香川さん。まず香川ランチという会社を魅力的な会社に、多くの人が働きたいと思えるような会社に育てて行きたいと、さまざまな商品開発を手掛けるようになった。
香川ランチいちおしの商品は「鮮々生々」という6個入りの鶏卵。とれたての卵は白身や黄身が盛り上がるのが特徴だが。新鮮な卵に多く含まれる炭酸ガスをパック詰めの際に充満させて密閉し出荷することで割った時の盛り上がりが長持ちする。特許を取得したこの商品は人気が高く。6年間取引のある香港のメーカーでプライベートブランドが立ち上がるほどだ。
また、命を頂く養鶏の仕事の一つ一つを大事にしたいと考え、規格外の卵や産卵期の終わった鶏を安くで市場に出すよりも、自社で加工食品の商品開発を行い、付加価値を付けて送りだすことに尽力している。
独自に開発された商品は年間を通じると100銘柄を超え、時には失敗も乗り越えながら着実に香川ランチの存在感を高めてきた。 さらに隣接する販売所は自社商品だけでなく近隣の地場産品も販売するアンテナショップとして展開し、敷地を一般に開放したイベントでは音楽ステージで香川さんがマイクの前に立つという一場面もあり会場を盛り上げた。農業や食を通して感動を伝えたいという三代目の挑戦に今後も注目したい。