宮崎県の中西部。国内最大級の照葉樹林に囲まれた宮崎県綾町は、2012年ユネスコエコパークにも認定された緑豊かな町だ。自然や町独自の基準を設けた有機栽培(町では自然生態系農業と呼んでいる)を活かした町おこしも注目され、移住者の多い町としても知られている。
その綾町の中心部に位置するのが、町やその周辺で生産された農産物や加工品、工芸品などの展示即売を行う「綾手づくりほんものセンター」だ。特に農産物は町独自の安全基準に基づいて、金、銀、銅のランクがつけられて販売される。納品は地元の生産者の人たちが直接運び、好きな棚に並べ、値段を決める委託販売の形態をとっている。
店舗の外にはイスやテーブルが並べられ、緑豊かな公園スペースには豊富な地下水が汲み上げられ、水は持ち帰り自由となっている。
新緑のまぶしい中、店長の梶山剛さんにお話を聞いた。
綾手づくりほんものセンター店長の梶山剛さんは岩手県出身。高校卒業後、上京して服飾関係の専門学校に在学中から東京都内のクラブでDJとして音楽活動をスタートした。その後23歳で単身渡米。帰国後も音楽活動を続けてきたが、綾町出身の妻との結婚を機に30歳で町に移住してきた。とにかく宮崎は飯がうまい!肉も野菜もうまい!と語る梶山さん。宮崎に移住してきた当初は、土木や営業の農機具量販店の店長などの仕事に就いていたが、綾町の地域に根差した仕事がしたいと、町の農産物の委託販売などを行う綾手づくりほんものセンターの店長に就任した。農業の経験のない梶山さんは家庭菜園程度の知識から手探りで仕事を覚えていった。委託販売の独特な形を学び、生産農家の方たちの畑に出かけ、一つ一つ教えてもらいながら信頼関係を築いていった。
綾町の有機農業(自然生態系農業)には独自の基準がありその4箇条は、
- 1.化学肥料、農薬などの合成化学物質の利用を排除すること
- 2.本来機能すべき土などの自然生態系をとりもどすこと
- 3.食の安全と、健康保持、遺伝毒性を排除する農法を推進すること
- 4.遺伝子組み換え作物の栽培を行わないこと
自然を尊重する環境保全型農業を推進するために「自然生態系農業の推進に関する条例」も町に設けられている。
そのため、町や周辺で作られた農産物を一堂に揃えるほんものセンターは、町の中心部に置かれ町内外から大勢の買い物客が訪れる。
そのほんものセンターをどうより良い方向に進化させていくかが梶山さんの課題だ。梶山さんが店長に就任して大きく変えたのが、店舗前のスペース。以前は駐車場になっていたが、椅子やテーブルを置いた憩いの空間に改装した。確かに目の前に駐車スペースがあった方が、買い物の利便性は一見高く見えるが高齢者や親子連れの安全性を考え、椅子やテーブルを置くことで店舗で買った加工食品や弁当を食べられるスペースを設けた。
梶山さんは、直売所や道の駅について現在は飽和状態にあると考えている。その中でどう付加価値を付けてお客さんに喜んでもらえるか。今後は、モノを売る場所とあわせて情報を交換する場所に使ってもらえればと準備を進めている。季節を感じながら安心な食と、情報がミックスする空間。綾手づくりほんものセンターに遊びに行く楽しみがまた増えそうだ。