宮崎県の延岡市北浦町に取材に訪れたのは、3月。東九州自動車道の一部開通が目前の時期で、ブームアップの番組作りのためか放送局の取材クルーの車も数台見かけた。
今回訪ねたのは、北浦町に古くからある港町宮野浦で水産加工品の販売と商品開発も手掛ける磯田勇樹さん。磯田さんは北浦町宮野浦で漁師の父と干物などの水産加工物を製造販売する母の元で育った。大阪の飲食店で調理の修行をした後、帰郷。地元の巻き網船などが漁獲する北浦どれの魚をもっと多くの人に美味しく楽しんでもらおうと新商品の開発に取り組み、あじ屋の店頭で販売している。特に、ゴマサバと豚肉を合わせ玉ねぎの甘味が特徴のサバメンチカツが人気で、町の小学校で行われた地産地消のための食育イベントでもメニューとして取り上げられた。
魚の加工品といって、すぐ思い浮かぶのが、干物や煮干し、みりん干しなどなど。磯田さんのお店「あじ屋」にも北浦どれの加工品が並んでいる。しかし、磯田さんは、若い人にももっと手に取りやすい商品をと考え、カタクチイワシを加工するアンチョビを思いついた。
アンチョビは、もともとカタクチイワシ科の小魚の総称だったが、日本では塩蔵品にしたものを指すことが多い。三枚におろして内臓を取り除いた小魚を塩漬けにして、冷暗所で熟成及び発酵させ、オリーブオイルを加え、缶詰や瓶詰にする。ピザのトッピングやパスタソースの食材として人気だが、磯田さんは、初めての人でも料理に取り入れやすいように、パスタや野菜にあわせやすいアンチョビソースを商品化した。玉ねぎやニンニクがあらかじめ入っており、瓶を開ければそのままパスタにかけたり、野菜スティックのディップとしても楽しめる。バリエーションとして、アンチョビのトマトソースや、からすみバターソースも販売している。
北浦漁協宮野浦支所で実際に作っている所をみせていただいた。カタクチイワシの身の部分をざるに分け、内蔵、骨、頭を保存容器に一緒に入れ塩だけで発酵させる。塩分によって出てきた濁り汁は濾すと魚醤のような調味料にもなる。こうしてできた、アンチョビに調味料を加えていく。現在は、ソースまで調理したものを販売しているが、今後はアンチョビそのものを大手通販媒体と提携して販売する予定にしている。 そのアンチョビを使って、取材スタッフのために磯田さんが手早くパスタを作ってくださった。パスタ麺のゆで汁でアンチョビを延ばし、春菊とトマトに火を通して絡めた簡単レシピ。料理人出身の磯田さんに美味しく作っていただいたパスタを堪能しながら、ガーリックトーストや、ブロッコリーとの合わせ、菜の花炒めなど、アンチョビの活用についての話に花が咲いた。
北浦町の宮野浦は自然の湾を活かした静かな港で、時間を忘れていつまでも潮風にあたって海を眺めていられる美しい風景がひろがっている。地元の海で水揚げされたサバやイワシを加工販売していく中で、もっと多くの人に、特に若い人に商品を手に取って欲しいという思いで商品開発を行ってきた磯田さん。
料理のバリエーションが増えるだけでなく、たとえばこのアンチョビソースの瓶が自宅のキッチンに置いてあるだけでちょっとお料理上手に見える、そして家に来たお客様とお料理の話題が広がる様なデザインをと、新商品のパッケージにもこだわった。県外で行われる食のイベントに参加するなど、これから少しずつ販路を開拓していこうと意気込む磯田さん。北浦の海の恵みを多くの人に届けてほしい。