日本きのこセンターの笹山さんはこう話す。「食材として美味しい椎茸を生産するためには原木栽培が一番です!」椎茸の美味しさは品種、栽培法、環境によっても左右されるが、 味に優れた品種やそれに伴う生産技術を提供するのが、日本きのこセンターの役割だ。
日本きのこセンターでは、一貫して原木の椎茸にこだわっている。原木栽培は原木となるクヌギやコナラの落葉広葉樹を山で育てることから始まる。原木林を育成することは、山林の荒廃を防ぎ、生態系バランスを維持するなど、防災、環境面でも大きな効果があり、クヌギやコナラは切った後も株から新しい芽が吹き15年もすると再び伐採することが可能で、自然環境を守りながら繰り返し育てることができる。
宮崎県日向市にある日本きのこセンター九州日向事務所は、宮崎県、鹿児島県、熊本県をカバーし、中山間地域の産業のひとつとして、菌の開発をメインに農家を回って品種の紹介、栽培のアドバイスを行っている。九州日向事務所所長の笹山儀継さんに案内して頂き椎茸栽培の現場を訪ねた。
椎茸栽培を初めて5年の溝口さんの椎茸生産の様子を見学させて頂いた。原木栽培では、栽培の規模をほだ木に埋め込むコマの数で表現することが多い。以前は1万個ほどの規模だったが、現在はきのこセンターの笹山さんのアドバイスを受けながら、10万〜15万個まで栽培の規模を広げている。
椎茸栽培の笹山さんのアドバイスは多岐に渡る。菌の打ち方、雑菌が入った時の対処、ほだ場の管理、病気の予防など、標準的な事柄から細かい事柄までを、迅速に対応して、生産農家との信頼関係を深めていった。
特に、規模の大きな栽培をする際、椎茸の発育がよいと、他の雑菌も育ってしまう。
雑菌が出たからといってその木が使えないかというとそうではない。山から木を切り出し10万以上のコマ打ちをして育てた椎茸とほだ場を病気を防ぐために思いきって処分するか、どの程度までなら椎茸菌の方が強いかといった場面で、どう見極めるか。経験豊富な日本きのこセンターのこれまでのノウハウを、笹山さんが適切にアドバイスしてくれたとのこと。
ちなみに、この出逢い旅の2013年4月号で紹介した、日南市北郷町の原木しいたけ「茸蔵(たけぞう)」の黒木さんも、一から原木椎茸栽培のアドバイスを受けた一人だ。全国チェーンの青果店に勤務する中で原木栽培の椎茸の美味しさに感激し、生産を始めた黒木さんをサポートし商品開発や直売スタイルでの販売のアドバイスをした。
原木での椎茸栽培は中山間地域の経済に大きく寄与している。スギやヒノキなどの木材生産で所得を得るまでには40~60年とスパンが長く、その中間的収入をどうするのかが課題となる。その中で、原木椎茸の栽培は中山間地域でも比較的短期に収入が得られる産業といえる。結果、木材生産や畜産業とあわせて、野菜などを生産し、そこに原木椎茸の栽培を組み込むことで複合的に収入を得ることができるようになる。しかも、中山間地域の独特の気候や風土を生かして栽培し、特に乾燥椎茸は工場内生産ができないため大きな企業が参入できないのもメリットと、笹山さんは話してくれた。
とはいえ、原木椎茸栽培は、山から木を切り出し、10万近くのコマをほだ木に手作業で籠め、天候や雨を気遣いながら栽培する重労働だ。商品としての価値を高め、多くの人に原木椎茸の美味しさを広めたいと新たな取り組みが始まっている。
笹山さんと生産農家が取り組んでいるのは、高級フルーツのように椎茸一つ一つに袋をかけた高級椎茸の商品開発だ。笹山さんと近隣の椎茸生産者が集まる研修会が立ち上がり、商品化への道筋をつけようとしている。近い将来、中山間地域を支える産業となる、ブランド椎茸の登場を期待したい。