永野時彦さんがはじめてひでじビールの存在を知ったのは、地元新聞の１面トップに、延岡で地ビール事業本格参入の記事をみた時だった。もともとスーパーでの鮮魚部門で職人として仕事をしていた永野さんが、その後独立して飲食店をオープンするなど経営者としての道を歩もうとしていた頃だ。その後、縁あってひでじビールに務めることになり、１４年間延岡発のビール作りに取り組んできた。ひでじビールのニュースとして、永野さんの名前が大きく報道でとりあげられたのは、母体となっていた企業がビール事業の継続を断念し、EBO（エンプロイバイアウト）を行った2010年。ビール事業を継続させるため、オーナーになってくれる企業を探し交渉を続けたが難しく、従業員の自分たちで経営を続けられたらという思いから、従業員による企業買収いわゆるEBOによってひでじビールの代表となった。しかし独立した直後に鳥インフルエンザ、口蹄疫が続けて発生。観光産業と売り上げが連動しているため厳しい局面が何度もあったが、こだわりのビールを武器に最近では順調に業績を伸ばしている。
「主役はビール酵母です」と永野さんが言い切るほど、ひでじビールは酵母にこだわっている。通常、国内産の地ビールは酵母をつくる専門会社から酵母を取り寄せ繰り返し使い回しているが、ひでじビールでは１００％自家培養で毎回フレッシュな酵母を使用している。ビール酵母自家培養しているケースは全国でも稀だが、その管理は難しく、永野さん曰く我々はビール作りの職人というよりも「ビール酵母のお世話係」という程。空気中に他の菌が入らないよう環境作り、特に衛生管理に厳しく目を配りながら、大切に育てている。ビールは大まかにいうと、モルト（麦芽）を主原料として、ホップ、ビール酵母、水の組み合わせでできている。例えば、モルトの焦がし方やそれぞれの配合の仕方で独自のスタイルが出来上がる。特に、ひでじビールは、工場のある行縢山から流れる行縢（むかばき）湧水を使い、宮崎県高原町産の大麦を用いたり、ビールのろ過装置の一部にシラス台地の砂由来の硝子を取り入れるなど地元にこだわったビール作りで数々の賞を受賞している。また都農町産のトマトを使ったレッドアイや、延岡発祥のチキン南蛮に合わせた専用ビールなどの商品開発も積極的に行っている。
延岡発の地ビールとして独自の存在感を放つひでじビールだが、永野さんは地域の中での存在感、立ち位置を常に意識しているという。もともと、延岡発信で何かを打ち出すという姿勢に感銘をうけてひでじビールの従業員となり、やがて事業を守るために自らが立ち上がり宮崎県内でも珍しい形のEBOでひでじビールを大切に守り育ててきた永野さん。だからこそ、つねに地元に愛される企業でありたいという気持ちが強い。永野さん自身も地域貢献の活動に積極的に関わり、多くのイベントを手がけている。
これまで、のぼり猿フェスタ、チキン南蛮のPRイベントなどを手掛け、そして2013年に開催された東京ガールズコレクションｉｎ延岡では、地元受け入れスタッフとして約3ヶ月かかりきりで奔走した。本来の経営者としての仕事も多忙の中、地域を盛り上げるイベントに積極的に関わる永野さん。何事も、挑戦しなかったことに後悔するより、チャレンジをまずしてみたいと笑顔で話すそのバイタリティが、延岡発の地ビールを守り育て続ける底力となっている。
取材： 横山美和 （よこやま みわ）
宮崎市出身。宮崎大宮高校を経て、立教大学社会学部へ進学。在学中よりフリーアナウンサーとして活動。２００３年に帰郷しテレビ宮崎入社。現在は子育てをしながらUMKテレビ宮崎、MRT宮崎放送、宮崎サンシャインFMの番組、CM等に出演の傍ら、宮崎県内で絵本とピアノのステージ「おはなしとおんがくの森」の公演も行う。
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