宮崎県の南端串間市の沿岸に広がる日向灘。その沖合で養殖されているのが「黒瀬ぶり」だ。生簀には絶えずダイバーが潜水し、魚を観察し、獣医師と相談しながら健康管理を行っている。ブリはもとももとは温帯性の回遊魚で、日本では出世魚であることから縁起物としても食されている。宮崎県で生産される養殖ブリの生産を一手に引き受けている黒瀬水産を訪ねた。
訪問して出迎えてくださったのが、今年社長に就任したばかりの山瀬茂継社長。遠洋での買い付け等長い海外赴任からのサプライズ人事で宮崎の養殖会社に赴任してきたとのこと。
まず、ブリの養殖の仕組みを解説してくださった。ブリの養殖は稚魚であるモジャコの導入から始まる。現在は、産卵からの完全養殖も一部取り入れ、2年間かけて4~6キロサイズの成魚に育てていく。入江ではなく外海で養殖しているため海流を受けて身が締まっているのが特徴。また浮沈式の生簀は台風の影響を受けにくく、年間を通して安定した生産をすることができる。
水揚げした魚を船上で活じめ脱血し、併設の工場で加工、出荷、配送を行う。一番美味しいといわれる水揚げされてから2日程後にちょうど消費者の口に入る工程になっている。
また、魚の成長にあわせて形状を変えるなど特に餌にこだわり、出荷3ヶ月前からは、カプサイシンつまり唐辛子を餌に混ぜることで、脂肪を程よく分散させ、歯ごたえ、色合いをよくするなど、肉質の向上に務めている。
年間を通して安定供給できる養殖ブリの強みを活かし、串間市採れの季節野菜や果物と合わせて、新しいご当地グルメとしてのメニュー開発も行われている。それが「串間活〆ぶりプリ丼」。ブリを100g以上使うこと、ブリのあら汁をセットにつけることなど、5つの条件をクリアしたメニューは、串間(くしま)にちなんで940円に金額を統一して、串間市内の下記の店舗にて味わうことができる。
高級魚のブリを食べやすい丼にして頂けるとあって人気は上々。新鮮な活〆のブリを是非堪能して欲しい。
- 串間温泉いこいの里 味処 本城亭 (TEL:0987-75-2000)
- 大乃屋 (TEL:0987-72-6323)
- 御食事処 味彩 (TEL:0987-72-8139)
世界の海を回り今年から養殖会社の社長に就任した山瀬さんは、今、食とは「生命」を頂いているということを改めて実感しているという。
食材となった魚を弔う、弔鱗供養(ほうりんくよう)も初めて経験した。2万トンを超えるタンカーを改造した洋上の加工母船などで、蒲鉾の原料となるタラの冷凍すり身を扱う生活から一変、卵を孵化させ、稚魚から餌にこだわり、病気や天候に気を配り2年間かけて育て揚げ、商品として出荷する養殖の現場に着いた。
畜産や養鶏の分野に比べて魚は養殖の歴史が浅く、天然魚の人気も根強い。しかし、山瀬さんは、新天地での目標として、宮崎の牛肉や地鶏のように「黒瀬ぶり」のさらなるブランド化を目指している。世界のトレンドとして、国の経済水準が上がると健康志向から、魚への需要は高まり、この10年程でこれまで淡水魚がメインだった中国で世界中の海の魚のニーズがあるという。
獲る漁業から育てる漁業へ。安心安全、そして安定供給できるブランド魚「黒瀬ぶり」の確立を目指して、串間の海から山瀬さんの新たな挑戦が始まっている。