美和の宮崎出逢い旅。スタートから食や農にかかわる方々を紹介してきたが、今回ははじめて女性の登場。宮崎活魚センター代表取締役の築地加代子さんを宮崎市内のオフィスを訪ねた。宮崎活魚センターは、魚貝類の仲介を主としている。平成9年に設立。14人の従業員を率いる、築地さんは経営者だ。ホテルやレストランなど、宮崎県内以外にも取引先があり、カンパチ、ハマチ、ヒラメなど取り扱っている。宮崎活魚センターの強みは、約200tの活魚槽。西日本各地の養殖場から運ばれてきたブランド魚を鮮度にこだわって提供している。
祖父の代から水産卸を営んでいる築地さん、第一印象は小柄でチャーミング、お魚の話題になると嬉しそうにお話ししてくださる。美味しいお魚を多くの方に届けたい、その熱い想いが強く伝わってきた。
築地さんは幼少の頃から、朝5時過ぎに起きて祖父の自転車の後ろに乗せてもらい、毎朝のように市場に通っていた。とにかく、市場の活気が大好きだった。セリの熱気、商売の駆け引き、喧嘩っ早いおじさん達の怒声も飛び交うが、真冬にはドラム缶に火を焚いて大勢で輪になって暖をとる。そしてなにより、セリの終わったあとに市場の食堂で食べるうどんの美味しさ。それが、築地さんの原点だ。
水産卸を営む築地さんの朝は早い。朝3時に起きて、3時半に出社。鹿児島、愛媛など西日本一帯の主に養殖の魚介類を宮崎の自社の生簀に運んでいる。約200tの活魚槽には、カンパチが300本、タイ200〜300本、ヒラメ100枚、イセエビ、サザエをいつでも卸せるように常時備えている。2、3日で売り切り、25tの活魚車が頻繁に出入りしている。
取引先は大手ホテルや、寿司店などの飲食店。台風やシケで魚が市場で品薄の時は、養殖魚の需要が上がるため、天候にも気を配る。魚介は新鮮さが命だが、天候でトラック輸送の到着時刻が遅れたり、急な注文で数が見えない部分もあり、毎日が緊張の連続だ。最近では、西米良のサーモンや五ヶ瀬のヤマメなど川魚の勉強を重ね、その美味しさを伝えようと活動の幅を広げている。
仕事をしていて窮地に立たされた時や苦しい時に思い出すのは、やはり幼少の頃に通った市場の光景や祖父の背中だ。直接、経営や商売の考え方を教わった訳ではないが、市場が大勢の人の輪で支えられていたこと、祖父の代を引き継いだ父の生き様を振り返り「自分には同じ血が流れているから大丈夫」と自身を奮い立たせる軸となっている。
築地さんの会社名「宮崎活魚センター」にある「活魚」(かつぎょ)とは、寿司や刺身に使う魚介類の鮮度を尊ぶ日本の食文化が産んだ輸送技術である。しかし、築地さんがこだわるのは、鮮度だけではなく、心のこもったお魚。その向こうに生産者の顔が見えるような誠実さがあふれるものがまず基本。商品にストーリーが感じられ、食べてもちろん美味しいもの。
今、イチオシ商品の一つとして売り出そうとしている、五ヶ瀬ヤマメのお料理を試作している現場に立ち会わせて頂いた。お造りや、南蛮漬け、洋風にも調理され並んだヤマメを見て、築地さんが「きれいに作って頂いて本当に嬉しいです」と感想を伝えていた。生産者の思いをより深く理解するために、社員と一緒に養殖場に研修に行くこともあるという築地さん。 みんなに愛される魚を作る人たちの努力を、仲介の役目として広めていきたいと語ってくれた。
築地さんに、今後の宮崎の美味しい商品を聞いてみたところ、2013年秋から販売が開始される宮崎発のオリジナルブランドの「キャビア」にも注目して欲しいとのこと。2004年、宮崎県は水産試験場で卵から成魚までのシロチョウザメ育成に成功し、現在は日本一のチョウザメ養殖産地になっている。そのチョウザメから採れるキャビアは、出荷できるまでに7年〜10年かかると言われ、ついに2013年秋から商品化できることになった。 キャビアの商品化を待ちながら、チョウザメの魚肉のメニュー開発、飲食店への提案、売り込みなど、築地さんは先んじて走り始めているとのこと。「やはり、彼女は商売人なのだ」と改めて思った。