今回訪れたのは、延岡市土々呂漁港のすぐそばにある高橋水産です。宮崎県の北部に位置する延岡市の海沿いにある土々呂漁港。日本有数の漁場である日向灘の魚介類が豊富に水揚げされます。高橋水産では漁港から水揚げされたばかりの魚介類をそのまま加工場へ移し、その日のうちに加工するため美味しさがより一層引き立つとのこと。
取材に訪れたのは梅雨の初め頃、空模様を見ながらの撮影となりました。お店にお邪魔して、まず目に入るのが樹齢200年を超える立派な枝ぶり梅の木です。そして、店舗の玄関まで続く手入れの行き届いたお庭が利用客の目を楽しませてくれます。庭を作ってお出迎えのおもてなしとして楽しんでもらうのは、先代のアイデアなんだそう。アイデアいっぱいのお店の中で、代表の高橋建生さんにお話を伺いました。
高橋さんによると、庭の草木は魚介の獲れ具合を左右する天候を見る上で欠かせない存在。梅の花の咲く時期を見ながらその年の暖かくなる頃合いを感じとったり、ツツジの花の咲き具合を見て、主力商品であるちりめんの時期の心構えをしたりと密接に結びついていると教えてくださいました。
新鮮な魚介を美味しさそのままに加工するためにはスピードが勝負。取材にお邪魔した日も、ちりめんアヒージョの生産で忙しい中、手を止めて撮影やインタビューに協力をして下さいました。また、水揚げされてくる魚の種類によってその日の行程が変わることもしばしばなんだそうです。
そんな水揚げのサインとして土々呂地区に残っているのがサイレンの音。朝の1回は小型底引きの魚が揚がってきた時、メヒカリは1回半、ちりめんは3回。近隣への配慮からサイレンを止める所が多い中、土々呂地区には昔からの漁港ならではの風物詩として、今でもこのサイレンが使われています。
明治35年頃より、現代表の高橋建生さんの奥さんの曽祖母にあたる高橋クメさんが土々呂の魚を行商したことから初まり100年以上もの間、ちりめんや鰹節、イワシの丸干し、メヒカリのみりん干しなどを加工製造販売してきた高橋水産。近年では地元の高校と連携して新たな商品も開発しています。
冷蔵や冷凍が必須のものが多い従来の商品とは別に、常温で持ち運びができる新たな商品として打ち出したのものの一つが、ちりめんアヒージョの瓶詰めです。水揚げされたちりめんを、水洗い、釜茹で、天日干しにした後、一匹一匹人の手により選別し、オリーブオイルと黒こしょう、ガーリックで仕上げた一品です。さらに、地元の延岡学園高校調理科の生徒の皆さんが、新商品を美味しく食べることができる様にと考案した料理のレシピをリーフレットにして配布し、好評を博しています。
元々は、家族が里帰りして集合した際に大鍋を囲んで楽しむために作っていたという魚介のアヒージョからヒントを得て作られた、地どれ水産常温加工品の「ちりめんアヒージョ」は2019年の日本ギフト大賞最高賞を受賞しました。地元の新聞社による推薦だったため、受賞の連絡を受けて初めてギフト大賞にエントリーしたことを知ったという高橋さん。受賞の際のスピーチでは、「この商品が出来たのは会社としての知恵だけでなく、地元の多くの方々の知恵や若い人のアイデアが集まって作り上げることができた」と語ったそう。
今後も常温商品の数を増やしていきたいとの思いもありますが、昔ながらの手作り製法のためそのペースはコツコツと。高橋水産の商品のパッケージのモチーフにもなっているお庭の梅の木のようなおもてなしの気遣いと、天候に大きく左右される海の恵みに寄り添いながら、美味しくて優しい気持ちになれる土々呂の水産加工品。ぜひ多くの人に手にとってほしい旨い品々です。
取材: 横山美和 (よこやま みわ)
宮崎市出身。宮崎大宮高校を経て、立教大学社会学部へ進学。在学中よりフリーアナウンサーとして活動。2003年に帰郷しテレビ宮崎入社。現在は子育てをしながらUMKテレビ宮崎、MRT宮崎放送、宮崎サンシャインFMの番組、CM等に出演の傍ら、宮崎県内で絵本とピアノのステージ「おはなしとおんがくの森」の公演も行う。
facebook: 横山美和