- 農業試験場でのお仕事を教えて下さい。
- 私が行っている仕事としては、残留農薬検査と、機能性成分分析です。調べるだけではなく、新しい検査・分析方法の開発にも取り組んでおります。私が所属する生産流通部では、この他に、切り花の鮮度保持、農産物の長期貯蔵、省エネビニールハウスの開発等の試験研究が実施されています。広大な試験場の中では他に11の各部・支場があり、それぞれに様々な試験研究を行っております。
- 画期的な残留農薬検査「宮崎方式」の誕生について教えてください。
- 「宮崎方式」とは、宮崎が他県に先駆けて独自に開発した残留農薬検査システムです。従来の残留農薬検査では、2週間ほど時間がかかるところ、「宮崎方式」では、なんと約2時間で検査可能!2週間もかかる従来の検査方法では、検査結果が出る頃には、もうすでに消費者の食卓に並んでいるでしょう。また生産者にしてみても自分の農産物が安全なのか不安を抱いたまま出荷することになります。「これでいいのだろうか」と、従来の検査法に疑問を感じたのは18年前。アメリカで、コーヒー豆から味も香りもそのままに、カフェインだけ取り除く機械が開発されている事を知った時、「これだ!」とひらめきました。カフェインの代わりに、残留農薬だけを抽出して、検査すればいいと気づいたのです。早速、当時の宮崎県営農指導課(現、営農支援課)恒吉(つねよし)さんに相談しました。私は、本当に運が良かった。彼が時間短縮の必要性に理解を示し調整をしてくれたおかげで、宮崎県の大事な予算の中から、この機械を購入する事ができたのです。届いてすぐに、米の残留農薬を検査することに成功しました!しかし翌日、ピーマンの検査で大失敗。問題は、ほとんどの農作物に多く含まれる〝水分〟でした。そこで水分を閉じ込めて、塊にするための添加物を開発。その後、この添加剤について特許を取得し、現在では国内で使用されている農薬を中心に約400種類を検査しています。こうして出荷前に安全・安心が確認できる「宮崎方式」が確立しました。
なぜ、宮崎県だけが独自の検査システムを確立できたのか。それは、国が示している従来の方法にとらわれず、多方面に掛け合ってくれる方と出逢えた事。添加剤を開発し特許を取得できた事。そして何より、この方法に理解を示し、歓迎して下さった生産者の熱い想いがあったからに他なりません。当時から6年後、国もこの機械の購入に補助を出してくれるまでになりました。
- 機能性成分分析の確立について教えてください。
- 「宮崎方式」がスタートしてしばらくした平成17年、取引があった東京の市場の方に、「旬の時期に栽培した他県のピーマンと比べたら、冬にハウス栽培した宮崎のピーマンは味も栄養価も下がるのでは?」と聞かれました。「そんな事はない!宮崎のピーマンは旬でなくても美味しさ、栄養価とも他県には負けない!」自信を持ってそう言いたかったのですが、その時反論できるだけのデータを持ち合わせていませんでした。ものすごく悔しかった。宮崎は温暖な気候と全国トップレベルの日射量を活かして、他県で生産量が減る冬季にピーマンをハウス栽培し、全国の需要をまかなっている背景があります。
宮崎のピーマンが味、栄養価でも優れていると実証したい!この話を先月号で紹介されている甲斐さん(現、ブランド・流通対策室 室長)とし、栄養価の成分を全国に先駆けて調査を始め、店頭で表示できたら面白い、そして宮崎のピーマンの良さを認めてもらおう!と奮起したのです。成分分析の方法は残留農薬検査を応用することで可能でした。ここから、2年をかけ230サンプルを調べたところで、ピーマンの主要な栄養素である、ビタミンCの平均値が、標準成分値より平均で約1.3倍高い事がわかったのです。そこで、大手量販店とタイアップし、栄養価が1.3倍、ならば金額も同じく1.3倍に設定し販売してみようという企画を実施しました。具体的には他県の3個入りピーマンが100円、宮崎のピーマンが130円です。宮崎のピーマンは栄養成分が豊富である分析結果を掲示し、全国600店舗で販売したところ、大手量販店が10円相当のポイント還元をつけてくれたことと相まって、なんと宮崎ピーマンが他県のピーマンに比べ1.5倍の売り上げを記録したのです!全国の消費行動が把握できたのも、とても興味深い事でした。消費者は、何の情報もなければ、安い方を選びます。しかし、そこに価格に見合うだけの情報があれば、安価でなくても納得して購入する事が実際の数字となって表れたのです。宮崎のピーマンが評価された、とても喜ばしい出来事でした。この後もデータの蓄積を続け、平成25年10月10日、〝みやざき健康ピーマン〟としてブランド化されたのです。現在は120の成分を2時間程度、ビタミンCであれば15分程度で分析する事が出来ます。
- 今後の〝宮崎の食〟の展開・展望についてお聞かせください。
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実は分析機器で世界的に有名な、京都にある島津製作所、大阪大学、神戸大学、そして宮崎県の4団体で次世代の残留農薬分析装置を開発中です。「宮崎方式」が、これから世界に向けて発信されていくことになります。日本中、世界中で使われることになるだろう、分析方法の原点が宮崎にある。たとえ、他の地域で分析技術が進んだとしても、宮崎県はより一層の信頼を得、農作物もより評価されると期待しています。宮崎の豊富な日射量など恵まれた風土の中で、今日まで地道に栽培指導と向き合い、ひたむきに取り組んできた生産者の努力は、他県が簡単に追いつけるものではありません。さらに分析データの蓄積量についても、追いつくことは難しいでしょう。宮崎の食の安全、食の魅力を科学の力で支えていく。私たち農業試験場職員は宮崎を深く愛し、自信を持って、今日も研究を続けます!