好天に恵まれた中、今回取材に訪れたのは宮崎県えびの市です。宮崎県の西部に広がるえびの盆地は、九州山脈と霧島連山に囲まれた、緑と水の豊かな土地。そのえびの市にある明石酒造。 焼酎造りの現場を見学させてもらおうと建物の中に入ると、早速、焼酎の香りが漂っていました。芋焼酎と米焼酎をブレンドして造ることで独自の存在感を発揮している明石酒造を代表する銘柄「明月」。えびの市は、芋焼酎文化の強い鹿児島、米焼酎文化の強い熊本の両県に近く、その地域性を活かした味を作り出しています。
今回お話を伺ったのは、明石酒造株式会社取締役の明石太暢(ひろのぶ)さん。大分県の大学を卒業後大分の飲料メーカーで仕事をしていましたが、30歳の時に帰郷。明石酒造で社長を務める父親の下で働きはじめ、営業担当をしている兄の秀暢(よしのぶ)さんと共に、家業を支えています。子どもの頃から父親が麹やもろみを見て回る背中を見ながら育ったとはいえ、焼酎造りは一からの勉強でした。仕込みのない時期には県の施設に通い焼酎造りの仕組みについて勉強を重ね、試験管で成分を確認するなどして徐々に学んでいきました。
明石酒造は明治24年(1891年)に創業、125年の歴史を持つ酒造メーカーです。会社を代表する銘柄は芋焼酎と米焼酎をブレンドした『明月』。その名前の由来は人々の心が満月のように、丸く明るく円満に、そして平和にとの願いがこめられ、えびの高原に群生する赤松にかかる満月を表しています。大切に受け継がれ、地元の愛飲家の支持を集めてきた明月ですが、昨年、新たな銘柄が誕生しました。その名も「明月超白(プレミアムホワイト)」。
隠し味に宮崎県のブランド米「えびの産ヒノヒカリ」を使用した米焼酎をブレンドする事で、芋焼酎の熟成されたやさしい香りと甘味、かすかに香る米焼酎の華やかさが調和した逸品に仕上がっています。この「明月超白(プレミアムホワイト)」は昨年の年末に、小林西諸地区から先行発売を初め、今年の1月から宮崎市内、県内に発売しました。明月の度数は25度がメインですが、宮崎県内の多くの焼酎と同じく、新商品はアルコール度数20度。多くの人に飲んでもらいやすいものを造りたいと考える一方で、「明月らしさを味にどう残すか」を試行錯誤したと明石さんは語ります。
元々は農業の傍ら焼酎造りをしていた明石さんの実家では、今も農業を続け「焼酎づくりは原料から」の精神を実践しながら守り続けています。春を迎え、焼酎造りが一段落したらそろそろ田植えの準備が始まる季節と話す明石さん。本人が思う理想の焼酎造りについて聞いたところ、「焼酎を造るすべての原料も自分で作ってみたい」という答えが返ってきました。
明石さんが焼酎の仕込みをしながら実感してきたのは、原料となる芋や米の大切さ。農作業も含めての素材づくりから焼酎造りまで、自分の納得出来るものをこの手で作ってみたいという思いを胸に、地元の人に必要とされ、他の地域の人にも愛される味を探求しています。