知識と経験を積み重ねた農業ー福田安剛

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福田 安剛(ふくだ やすたけ)

1972年生まれ。(株)やすたけ・ヤスタケベジファーム(直営)代表。
33才で実家から独立。ショウガを始め主要4品目で周年栽培、周年出荷に取り組む。新ショウガの芽の漬け物も商品化。

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知識と経験を積み重ねた農業ー福田安剛
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日本最古の香辛料

ショウガは、ショウガ科の多年草。原産地インドからマレー半島にかけての熱帯アジアが原産。インドやアラビアの医学書には、ショウガが約2000年前から万能薬として使われてきた歴史も記されています。日本最古の香辛料ともよばれるほど日本での歴史も長く、稲作とほぼ同時期に中国から伝来し、主に薬用として栽培が始まったといわれています。
佐土原は生姜の生産量宮崎一。特にハウスで促成栽培され春〜夏にかけて出荷される新ショウガの割合が多く、福田さんもハウス100棟で新ショウガを栽培しています。

ショウガの辛み成分はジンゲロールといい、強い殺菌力や体の免疫力を高めてくれる効果があり、例えばお寿司についてくる『ガリ』も生姜の酢漬けです。 また加熱したり乾燥したりすると、ジンゲロールの一部がショウガオールという成分に変わり効能が変わります。胃腸を直接刺激し体内温度をあげて冷え性改善や、高い抗酸化作用が注目されます。これから朝夕冷え込む季節には、すりおろしたショウガにハチミツを少々、お湯を注いでほっと温まりたくなります。

実家から独立、一からのスタート

福田さんは宮崎市内の進学校を卒業、その頃から農業を志すようになりました。卒業後は県外の農業大学校などで学び、アメリカでのファームステイやヨーロッパ視察を経験して帰郷。実家に帰ってからは養鰻をやめるなど経営の安定化を図り、目処がたった33才で実家から独立。今年10年目を迎えました。
就農にあたり、機械も土地も施設も一から揃えました。現在ショウガ、日向夏、ミニトマト、ピーマン の主に4品目を栽培。一年を通して植え付け、栽培管理、収穫、出荷のサイクルを回します。

主力作物はショウガ。4月末から8月にかけてハウスで育てた新ショウガの出荷、9月には路地栽培のショウガの出荷が始まります。
株式会社やすたけは、スタッフ16名を雇用(内正社員3名)。今回の撮影は8月12日で丁度会社のお盆休み期間でした。撮影以前の取材では、「社長、子どもの三者面談が入ったので、明日の午後はお休みをもらっても大丈夫ですか?」。誰々が出勤できるよね、とスタッフ同士がお互いのシフトも把握しながら調整。長年働いているベテランスタッフも多いようです。

馬ふん堆肥を導入

福田さんの畑やハウスは海岸に近く、どこも砂のようにサラサラとした土です。強い風がふくと砂埃がたち、スニーカーで歩くとさーっと砂が入ってきます。
水はけのよい砂地は、ハウスの中でたっぷり散水して育てる、新ショウガの栽培に向いています。「この土だからお肌のきれいなショウガができる」と福田さん。また「辛みがしっかりある、味や香りが強い」と販売先に喜ばれているそうです。確かに目に届くほどツーンとくる辛みには、びっくりしました。
ただ砂地だと、ハウスを用いない露地栽培を行うには、水はけが良すぎます。そこで福田さんは露地栽培の畑に完熟させた馬ふんを使用することで、水持ちの良い土に改良しています。

主に馬ふんを使用した土壌改良は初めて聞きました。自分でも調べてみましたが、実例が少ないようでなかなか情報がつかめませんでした。ワクワクして導入に至った経緯や効果を尋ねると、「昔の人の言い伝え(昔は農耕馬を使用していた)」、「フランスのバラ栽培やマッシュルーム栽培にも馬ふんを使っている」ことなどを教えてくれました。実際に導入して二年目にはその成果が現れ、病気も少なくなりショウガの太りが良くなりました。
福田さんの、これまでの知識や経験の積み重ねがあるからこそできた判断なのでは、とひそかに思いました。

前例に頼らない。砂地で日向夏

前例がないことにチャレンジする。これは福田さんにとって珍しくないこと。ハウス4棟に日向夏を植えるときには「砂地での日向夏の栽培は前例がないから、止めた方がいい」と回りからとめられた、と今では笑って話します。
結果として日向夏は順調に育ち、収量も落ちませんでした。むしろ生理落下(自然落下)が少なく、まん丸の綺麗な形の実がなっています。また砂地で水が制限されるからか、昨年販売店が計ったところ他の日向夏より2〜3度糖度が高かったそうです。

何よりも自分自身の経験と勘を信じて判断する福田さん。
取材中も、自分の苦労や経歴を進んで語ろうとはしません。その代わりに、人とのつながりを大事にし、何事にも前向き。新しい情報をつかみ、新しい判断基準を身につけようと、常にアンテナを張り巡らせているように思いました。
事実、農業大学校や種苗学校時代の恩師や、販売先はもちろん、農場のサポート企業や、地元の同級生や商工会まで、幅広い人間関係を築いています。そんな福田さんを周囲の人は親しみを込めて「やすたけくん」、「やすたけちゃん」と呼びます。だから株式会社やすたけ、なのかな。

「もったいない」の発想。農家しか作れない漬け物

新ショウガは水分が多く、辛みや繊維質は少なく、そのままみそ漬けにしたり酢漬けにしたりと手軽に食べられます。ただ、新ショウガの芽の部分は特にその特徴が顕著で、日持ちがしません。そのままにしておくと、1〜2日で芽が乾燥して変色してしまうので、多くの新ショウガでは芽を切り落として袋詰め、販売しています。
そんな切り落とした新ショウガの芽を「もったいない」と感じていた福田さん。平成20年には加工業にも進出し、切り落とした新ショウガの芽の漬け物を製品化しました。漬け物にした理由は「家で作ってみたらおいしかったから」。切ったその日に加工する、農家ならではの一品。現在は甘酢漬けとしょう油漬けの二種類を作っています。

お勧めはしょう油漬け!甘酢漬けは予想できる安心できる味ですが、福田さんもお勧めのしょうゆ漬けは食べてみないと味の想像がつきません。特に男性からの評判が良く、酸っぱい物が苦手な人でも食べられると好評です。新ショウガの柔らかな食感と辛みが、しょう油ベースの漬け液と驚く程馴染む一品。奥さんの美佳さんも漬け物を手に取ると、先日「ずっと入院している父がこれしか食べないから」としょう油漬けの直接注文の電話があったと、嬉しそうに話してくださいました。手づくりのため少しずつではありますが、宮崎市内のスーパー等で販売中です。

※販売先・・・宮崎市内のスーパーまつの、フーデリー、マックスバリュ等

  • ブログページ―おいしい野菜の見え方
  • 取材:大角恭代

    小林市在住。大学卒業後、㈱ファーストリテイリング勤務。2011年2月Uターン。野菜ソムリエ。たまたま食べた無農薬無化学肥料栽培の文旦に衝撃を受け、おいしい野菜の育ち方に興味をもつ。おいしいと思う野菜があると畑にいき、生産者と想いを語る。

    夢は『いつでもどこでもおいしい野菜が食べたい、広めたい』。

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