目線をあげると、すぐそこに山頂がある山田さんの自宅と作業場。その横から山全体に広がる栗林。鳥獣害対策で2m近い高さのフェンスに囲まれていますが、のびのびと幹や枝を伸ばした栗の木と並ぶとか細く感じます。山の頂の向こう側にも広がる山田さんの山には、約380本の栗の木が植えられています。
「栗は手入れしただけ。栗はよう知ってるよ」。栗は植林して早い木で1〜2年で実をつけますが、5〜6年待って初めて収穫するようにしているそうです。
「小さいうちに実をならすと木に負担が大きいからね、落としてやらんないかんとよね」とまるで子どもに接するよう。「今年もたのむからねー」「おいしい栗たのむよー」と声をかけも大事にしています。
8月も終わりに近づいた取材日は、少し冷えた空気も感じた、曇り空。今年は日照不足の影響で、こぶりでまだ味が良くない、とさらっとこぼした山田さん。気になって顔をあげると、ニコッと笑顔をみせてくれました。取材中、苦労話の時にも明るい笑顔と気の効いたジョークで、終始私たちを笑わせてくれた山田さん。静かな山で、忙しい栗の季節はこれから始まります。
美味しい栗はどんな栗か尋ねると、「自然の味に近づけたい。野生の栗(ノグリ)の味。甘くて美味しいのよ」。食べたことがないと言うと、「そうね。美味しいよ、あまーいのよ・・」一瞬宙を見て憧れるような表情で語る山田さん。本当に美味しいんだというのが伝わってきました。私に視線を戻すと、欠かさずニコッと笑って「今度あげるね」と気配りの一言。
栗はブナ科クリ属の落葉樹。日本の山野に昔から自生していた在来の果実です。山田栗農園の看板に記された「須木栗発祥の地」の言葉。戦後、山田さんのお父さんが栗を植林したのが、須木地区の栗の産地としてのはじまりです。
旧須木村時代から『須木栗』は甘くて大きくて美味しいと定評があり、須木栗は村の代名詞でもありました。高齢化が進み、地区内の栗の生産量は年々減少していますが、京都や大阪、東京の菓子店など変わらず使い続けているところは多いと聞きます。
「ここは夜間に温度がぐっと下がるから、おいしい栗ができるのよ」。山田さんはここが栗の栽培にとても適したところだと教えてくれました。さらに栗は冷蔵庫で一週間も保管すると糖度があがり更に甘くなるのだそうです。「冬が来たと思うとよ。栗は生きているからね」。
美味しい栗の決め手を尋ねると「選別だね」と即答。現在の農業大学校の前身である農業試験場果樹園芸科で病害虫について学んだ経験から、見た目で分かるのだそうです。私は実家での栗拾いが秋の楽しみの一つですが、茹でて皮をむいて、虫が入っていたり実が黒ずんでいたりすることも、少なくありません。
山田さんに教わった美味しい栗の見分け方は、①表面にツヤがあって、②実が固くて、③持ったときに重たいもの。最後に「栗は生きているからね」と一言。ありがとうございます、早速今年の秋から生かします。
選別では、栗の実の先端が黒ずんでいるものや表面にツヤがないもの(乾燥)、実が欠けているものを、味が良くないからと除けていきます。
また、針で刺した穴があるようなもの、全体にススがついているものや落ちてコオロギがかじったものなど味に変わりはないけど、見た目に難があるものも除けていきます。
「美味しかった、ありがとう。虫食いがない、虫が入ってなかった。とお客さんから喜ばれることが嬉しい」と、一つ一つ手作業で選別をします。「でもだから、毎年視力が落ちていった。」栗の選別でじっと手元を見つめる作業を繰り返したことで、山田さんの目はどんどん見えにくくなりました。それでも優しい笑みはそのままに、これからも栗農園を続ける山田さん。お客さんが信頼を寄せるのも納得です。
山田さんの栗栽培は、農薬も化学肥料も用いません。特に「害虫を食べる益虫が増える」ためにも農薬を絶対に使いません。害虫は栗の葉の裏に産卵するから、産卵の時期に注意して葉の裏を見て、それを見つけて取ればいいだけの話。虫が増えると鳥が多くなってクモが多くなる。自然な山の循環の姿をよどみなく話している時だけ、少し眉間にしわが寄っているように感じました。
栗の葉はさつま芋の実のように細長い形。ギザギザの大きな葉っぱです。葉っぱもイガと同じように鋭く、触ると刺さって痛い。栗のイガはクッション代わりになり、例え10m上から落ちても大丈夫です。ものすごい生命力。
「敏感なアレルギーやひどいアトピーを持つお客さんもいるし、山田栗農園の栗だけしか買わないというお客さんもいる。お客さんを裏切れない」と安心安全を求めるお客さんのためにも、今後も農薬を使わない栽培を続けます。
そんな山田さんの栗畑にて、どしんと私の背中に体当たりしてきたのは光り輝く玉虫。サクラやケヤキ、カシなどの古木に卵を産んで増える玉虫は近年生息環境の悪化で個体数が減少していると言われています。玉虫がキラリと輝く姿に思わず「きれーい!」と集まる取材スタッフ女子3名。玉虫は縁起がいい虫だと言われています、なんだかワクワク。自然って楽しい。
山田さんの栗はお客さんへの直売がメインです。お客さんからの紹介やお客さんから贈られた人が直接注文するなどして、口コミで広がって行きました。一部は県内でも販売されていますが、ほとんどは北海道や名古屋や大阪など県外へ送られて行くそうです。栗の多い時期には宮崎市内のデパートやイベントにも出店、山田さん自ら販売にも立ちます。
イベントでは栗と一緒にジャム等の加工品も販売。「ジャムを作り始めてどれくらいになるかなぁ・・」。20年以上前に取り組み始めた栗の商品開発、栗ジャム作り。6次産業の先駆者です。過去に加工グループを組織していたこともありますが、地域で一つの加工グループに統一することになり撤退。現在では山田栗園の手作り商品の加工・企画・開発と、他所での商品開発アドバイザーとしても活躍中です。
地元では何でもジャムにする「ジャムおじさん」としても有名な山田さん。栗はもちろん、柚子、ブルーベリー、パパイヤ、マンゴー、柿、梅、日向夏、メロン、トマト、山桃・・・。実に20種類以上のジャムやシロップ漬けがあります。特に、日向夏は心地よい酸味と爽やかな香りが気持ちよい一品でお勧めです。最近ではナスのジャムにも挑戦したそうです。とにかく何でもやってみる。イベントに出店する際にはジャムも一緒に販売。
スタッフにジャムをプレゼントしてくださいました、ありがとうございました。
※栗、ジャム販売予定先・・・ボンベルタ橘(宮崎市)地下一階
※栗、ジャム販売予定イベント・・・すき栗まつり